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読書 ジョディ・ピコー「偽りをかさねて」

2007-12-16 11:07:56 | 読書

              
 アメリカでかなりの人気を得ているジョディ・ピコー。1992年のデビュー以来着実な歩みを続け、2004年の「わたしのなかのあなた」が評判となり以来人気作家の一角を占める。
 本作は、2006年に上梓して彼女の13作目にあたる。家族の物語といえば、困難や苦悩を一致団結して解決するというほほえましい展開が常道ではあるが、この小説は趣を異にしていて、冷徹な視線が容赦なく注がれ、家族といえども嘘や裏切りからも無縁ではない存在であることを、作者独自の哲学的比ゆを随所にちりばめながら語られる。

 一人娘で14歳のトリクシィがレイプされる。そのとき古典の教授である母親のローラは、教え子と研究室で不倫の真っ最中だった。それらを感づいていた夫ダニエルは、在宅の漫画家で日常は家事やトリクシィの面倒を見ている。反抗期のティーンエージャーを持つ親、その親たちに横たわる隙間風。
 トリクシィが言うレイプ犯は、同じハイスクールの上級生ジェイスン・アンダーヒルだった。このジェイスンは追い詰められて自殺したと思われたが、捜査が進むと殺人に変わる。
 容疑はトリクシィにかかり、トリクシィは父の育ったアラスカに逃げる。アラスカに見当をつけてトリクシィを追ったダニエルとローラではあったが、トリクシィを見つけて連れ戻したダニエルがジェイスン殺しの告白を妻ローラから聞かされるとは夢にも思っていなかった。
 トリクシィを主人公に、ティーンエージャーの心の動きを追いながら家族の絆を描いてみせる。よくできた作品ではあるが、注文もつけたくなる。
 ローラの不倫の原因が今ひとつ明確でない。刑事マイク・パーソロミューは、彼の娘がドラッグの過剰摂取で死亡した重荷を背負っている男として描かれるが、トリクシィたちの年代にも触れてあって、掘り下げれば社会性を帯びた厚みのあるものになったのではないかと思う。

 ここで描かれるティーンエージャーの生態の一端は、私のような年代には理解できないし恐怖すら覚える。
 具体的に引用すると“最近、パーティで広まっている三つのゲームがある。ディジーチェインというのは、連鎖式にセックスをすることだ――ある女の子が一人の男の子とやり、彼が別の女の子とやり、その女子がまたほかの男の子とやる、というふうにして、最初に戻るまで続ける。
 ストーンフェイスでは、男の子たちがテーブルを囲み、パンツを下ろしたまま何の表情も浮かべずに座っていると、女の子がテーブルの下にもぐりこんで、中の一人にフェラチオをする――そして全員でそれを受けたラッキーな人を当てる。
 レインボウは、その二つを組み合わせたようなものだ。十人程度の女の子たちが、それぞれ違う色の口紅を塗ってから、男の子たちとオーラルセックスをする。その晩のおしまいに一番多くの色をつけている男の子が勝者になる”信じられない思いだ。
 しかし、このような記述が物語を強化こそすれ、低俗に堕していないところは文体の品性によるところが大きいのだろう。この本は、幾通りにも読める気がする。

 著者は、1966年ニューヨーク州生まれ。プリンストン大学で創作を学んだ後、ハーヴァード大学大学院にて教育学修士号を取得。1992年にSongs of the Humpback Whaleで作家としてデビューする。以来、ほぼ年一冊のペースで作品を発表し続け多くの読者を獲得。社会に深く切り込むテーマと、ドラマティックなストーリー展開には定評がある。夫と三人の子供とともしニューハンプシャー州在住。