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読書 ロブ・ホワイト「マデックの罠」

2010-06-14 09:45:19 | 読書

            
 この本は、児童向け図書であるが大人が読んでも十分に応えてくれる。作家の逢坂剛が、新聞に紹介していた。児童向けとあって漢字にかなが振ってあるのがややめざわりといえなくもない。読後感は実にスリリングでしかも偶然や嘘っぽい表現が全くない。ストーリーの組み立てがしっかりしていて、しかも不要で饒舌な部分もない。一級の冒険小説だ。
 600人の人間を雇用する会社を経営するマデックという男。人当たりがよく信頼できるという印象を与えるが、これまでの事業展開でここまで成功するには、狡猾で残酷な面も持ち合わせていた。
 ビッグホーンの狩猟ガイドを引き受けた大学生のベンがまさかの苦境に突き落とされるとは、夢にも思っていなかった。それは、マデックがビッグホーンと見誤って撃ったのが、砂漠をさすらう老人だった。まさに事故だったが、手に汗握る物語が展開される。
 砂漠でのベンの死線をさ迷う様子は勿論だが、私はむしろ後半の治安判事や保安官それにマデックの弁護士たちの事前調査の緊迫したやり取りから目が離せなかった。
 ようやく嫌疑が晴れたベンに治安判事は言う。「さて、われわれは、マデック氏を告発しなければならない。罪状は……殺人未遂……加重暴行……」治安判事は、ベンを見た。
「彼は君を殺そうとしたんだろ、ベン? 彼は君を撃った。きみ、証言してくれるね、彼が殺人を行う意図のもとに、凶器によって暴行を加えた、と?」
「いや、それはしません」ベンは答えた。
「僕がここへ来たのは、事故の報告のためなんですから」
 小説はここで終わる。治安判事の言う、殺人未遂や加重暴行をマデックは行った。ではなぜこの結末にしたのか。ベンの崇高な人間性を描出したかったのだろうが、ややキレイごとと思わないでもない。この本は、学校の副読本として格好の素材で、教室で大いに感想を述べ合うのも楽しい時間の過ごし方だろう。なお、本書は、1972年度アメリカ探偵作家クラブの最優秀ジュニア向けミステリー小説としてエドガー・アラン・ポー賞を受賞した作品。
 著者は、フィリッピン、ルソン島生まれ。アナポリス海軍兵学校卒業。第二次大戦中は、パイロットや潜水艦、航空母艦に乗り組む。瀕死の重傷を負うこともあったが、海軍をやめてから、中東クルディスタンの洞窟、カリブ海の孤島など世界各地を探検しながら多くの作品を書いた。一時ハリウッドで映画の脚本も手がけテレビドラマの「ペリー・メイスン」の脚本もある。
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