原題のラッキー・ワンは、イラク駐留のアメリカ兵の生き残りを意味する。イラクでの戦闘は、通常の戦争とは違った様相を示しているように思う。通常の戦争とは、両国の兵士が軍服に身を固め組織的な戦闘することだ。
ところが、ベトナム戦争以来それが崩壊した。北ベトナム兵は、ベトナム人が着る日常の衣服で銃を持っている。一旦大衆に紛れ込めば判断がつかない。このイラクも民間人が頻繁に往来する市街地から原野に至るまで敵対する軍服の兵はいない。テロを仕掛ける民間人がいるだけである。そんな戦場から帰還するのは、ラッキー以外なにものでもない。
そのラッキーな一員に選ばれた三人の兵士。コーリー(レイチェル・マクアダムス)、フレッド・チーヴァー(ティム・ロビンス)、T・K プール(マイケル・ペーニア)が、JFK国際空港に着いたとき5時間の停電ですべての国内線は欠航していた。
レンタカーでセントルイスに帰るというチーヴァーとシェアしたこの三人。まったく偶然の出会いからアメリカ縦断の旅となった。徐々にお互いの絆が築かれていくが、問題も持ち上がる。
チーヴァーの自宅に立ち寄った時、チーヴァーは妻から離婚を宣告される。理由は一人の生活が快適で気に入っているからと言う。この理由を聞いて納得するかしないか人それぞれだろうが、私はなんとなく分かる気がする。夫婦は他人という現実をまざまざと見せられた。それに加え息子がスタンフォード大に合格して入学金が2万ドル必要なことも分かりその工面に頭を痛める。
もう一つ、T・Kには深刻な悩みがあった。イラクでパトロール中、爆弾の破片が急所に当たって不能を抱えていた。コーリーはボーイフレンドの戦死で遺品のギターを届けた先に妻と子供がいるのが分かる。
三人の人生にそれぞれの苦悩が影のようにつきまとうが、再び三人を乗せたジェット機はイラクへと舞い上がった。カメラはずーっとジェット機を追っている。なにか「あなたも勇気を出して!」と言われているようだった。
監督ニール・バーガー
キャスト
ティム・ロビンス1958年10月カリフォルニア州生まれ。’92「ザ・プレイヤー」でカンヌとゴールデン賞に輝き「ショーシャンクの空に」に出演。監督した「デッドマン・ウォーキング」でアカデミー監督賞にノミネートされる。’03「ミスティック・リバー」で高い評価を受けアカデミー助演男優賞を受賞。
レイチェル・マクアダムス1978年11月カナダ、オンタリオ州生まれ。
マイケル・ペーニア1976年1月イリノイ州シカゴ生まれ。