10人の監督がニューヨークの街角から愛の物語を届けてくれるオブニバス映画。若者の恋、中年の恋、老人の夫婦愛。
中でも思わず笑ってしまったのは、イーサン・ホークが街角で際どいセリフとともに女を自分のロフトに誘うお話。
「俺はテクニシャンなんだ。Gスポットも教えてあげるよ。優しいキスと柔らかなクリトリスへの愛撫もあるよ」女はニヤニヤするだけ。まくし立てるイーサン。
女はぽつりと言う。「私は娼婦よ。週末は忙しいから。電話をしてね」名刺を上着にねじ込んで去って行った。
それに男の本質を抉るようなクリス・クーパーのお話。レストランの前で煙草を吸う。携帯が鳴って話をはじめる。煙草を持った女が出てくる。携帯で話しながら女に火をつけてやる。夜の歩道は何か物悲しさが漂う。女が話しかける。
「見ず知らずの女とセックスしたことある?」
「いや、見ず知らずはないね」
「レストランに戻っても、夫は見向きもしないわ。ノーブラ、ノーパンよ。セックスしたいでしょ」
クリスが顔を近づける。さっと交わされる。「さっきのは何なんだ?」女は言う。「これから新しい旅立ちなの」女はレストランに戻る。
えっ、一体どういうこと? 観ているほうは思う。クリスもレストランに戻って妻と食事をする。「愛しているよ」ワインが言わせたのか。さっきの見知らぬ女との会話を反省して言ったのか。それは分からない。ただ言えるのは、よくある男の得手勝手ということ。
蛇足ながらノーブラ、ノーパンをセリフでもその通りに言っていたように聞こえた。聞き間違いかもしれないが。
あと10年もしたら、私もあのようになるのだろうか? と思わされ老いた夫婦の優しさが印象的だった。そんなお話。
「脚を上げて歩くの。すり足じゃ転ぶわよ」妻が言う。信号が青に変る。交差点を渡る。「急いでね」妻が先に渡り終える。ようやく夫も渡った。「急がなくていいわよ」と妻。
じゃあ、一体どうすればいいんだ。と観る者は思う。安全に渡り終えた安心感から、言わなくてもいい言葉がでる。
どこのご夫婦でも、日常に経験することだろう。若い二人もやがて支えあう文字通り「人」の形になる。この「人」の一片が欠けたとき人生の終焉を悟る。エンディングにふさわしいエピソードだった。
この10のエピソードを、自分の人生と重ね合わせて観るのもいいかもしれない。この地球上で、愛を求め愛を失いまた求めて失う人間の業を見た気がした。一つ不満があるのは、このDVDが使いづらいことだ。チャプターがないので、気の利いたセリフの確認に最初から見る必要がある。面倒なのでうろ覚えのセリフを書いたので、そっくり同じでないことをお断りしておきます。