なるほど15の短編小説集でそれぞれが面白いが、とりわけ「ブラインド・デート」が私には印象的だった。
「ジャスミンの香りが最初の手がかりだった。女性だ」これがこの章の入り口にある誘導の言葉だ。彼女は隣の席に座った。向かいの椅子が引かれる音がしなかったし、腰を下ろした彼女に話しかける声も聞こえなかったので一人だと分かった。
「あなたが隣のテーブルにいても、私の目が見えないことに気がつかないはずだ。隣に座っている人が真実を知るまでどれだけ騙しておけるかが私の挑戦なのだ」というわけで、時間を尋ねることで会話を始めて、年齢の推測や出身地それに礼儀正しさも分かった。
彼女が先に紅茶の代金を支払って店を出た。表まで彼女を送っていった馴染みのウェイターに聞いた。「さっきまで隣のテーブルにいた女性のことを教えてくれ。背が高かったか、低かったか? 金髪か、黒髪か? 痩せていたか? 美人だったか? それから――」
ウェイターがいきなり笑い出した。
「何がそんなにおかしいんだ?」
「あの女性もまったく同じ質問をされましたよ。あなたについてね」
ジェフリー・アーチャー1940年イギリス生まれ。