
私は何度かまったく同じ自分が存在するのでは、と思ったことがあった。この映画は正にそれが描出される。
オープニングは暗い部屋でなにやら怪しい雰囲気が漂い、蓋つきの銀のトレーを持った着物姿の女が現れ、その蓋を取ると蜘蛛が一匹のそりと蠢いた。固唾を呑む男たち。
歴史教師のアダム(ジェイク・ギレンホール)は、同僚から教えられた映画の中で自分にそっくりな男を発見した。心の動揺が抑えられないまま、その男アンソニー(ジェイク・ギレンホールの二役)に連絡をする。
何度か断られた後、面会に漕ぎつける。が、アンソニーの妻ヘレン(サラ・ガドン)がアダムの勤務先へ行ったことから事態はあらぬ方向へと向かう。
アンソニーは、アダムと妻が寝たと思い込み「女房を巻き込んだな。お前の彼女にも償わせろ! 消えて欲しけりゃ、服と車を貸せ!」
さあ、大変なことになった。つまらない好奇心がこんな事態になるとは。アダムは仕方なくアンソニーの自宅へ。結局、妻を取り替えたスワッピングとなった。
顔や体つきそっくりでしかも後天的な傷まで同じ。が、セックスは別物だった。アダムの妻メアリー(メラニー・ロラン)は、指輪の痕があるのを不審に思い逃げ出そうとする。
映画はそう語るが、実際はセックスの相性の違和感だと思う。指輪の痕は、違和感の象徴ではないか。顔かたちがいかにそっくりでも、セックスまで同じとは限らない。夫婦の間ではセックスの相性が刷り込まれているはず。
そして驚くことに、アンソニーとメアリーが早朝車で帰宅途中喧嘩が蒸し返され、アンソニーは走行中の車から「降りろ!」と助手席側のドアを開けようとした。
そのときハンドル操作を誤って側壁に激突、横転。車は腹を上に向けて大破。カメラは助手席の窓に近づいていく。そこには蜘蛛の巣と一匹の小さな蜘蛛がいた。
一方アダムとアンソニーの妻ヘレン。ヘレンがアダムを誘う。事情を知っているアダムは、その気になれない。が、やがて二人は絡まり、へレンがアダムの手に指を押し付ける。その指にアンソニーと同じ指輪が光っていた。これは同類を意味する。
つまり蜘蛛が化身の正体だった。そしてアダムが見たものは、寝室で元の姿に戻った大きな蜘蛛のヘレンだった。
日本では蜘蛛が化身するとは聞かないが、欧米ではあるのかもしれない。ネタバレになったが、一体なにが言いたいのだろう。アマゾンでDVDの検索をしてレビューを見ると「さっぱい分からない」というコメントが多い。
しかし、映画的には「次はなにが起こるだろう」という期待を持って観る点ではそれなりに成功している。
ちなみに、自分と瓜二つの人間の存在は絶対不可能と断言できるらしい。自分と同じそっくりさんが、詐欺や殺人を犯す心配はないから安心を……。なお、この原作はポルトガルのノーベル賞作家ジョゼフ・サラマーゴだという。劇場公開2014年7月

監督
ドウニ・ヴィルヌーヴ1967年10月カナダ、ケベック州生まれ。
キャスト
ジェイク・ギレンホール1980年12月ロサンジェルス生まれ。
メラニー・ロラン1983年2月パリ生まれ。
サラ・ガドン1987年4月カナダ、トロント生まれ。