私たちには確実に狂気の部分が刷り込まれている。早い話が恋に落ちたとき一途に相手を思うのは、異常をきたした精神状態であることは確かなことだ。寝ても覚めても思うというのは普段ではありえないからだ。狂気の部分といってもいい。
こんなセリフがある。「皮膚をはがし筋肉をはがす。内臓を取ると、その先は骨に突き当たる。だが、骨が終点ではない。骨の中には隋(ずい)がある」この髄が究極の本音の部分を言っているように思えてならない。もともと人間は仮面をかぶっている。決して本音を表に出さない。
この地方の大学の総長の娘マーサー(エリザベス・テイラー)と結婚した歴史学教授ジョージ(リチャード・バートン)の家に夜中、生物学教授として新任のニック(ジョージ・シーガル)とその妻ハニー(サンディ・デニス)が訪れる。
この四人が、真夜中から明け方まで延々とある種のゲームじみた会話を展開する。マーサーとジョージは、客の前でありながら相手をこき下ろしたり皮肉ったりする。ニックとハニーも徐々にそのペースに乗せられていく。
真夜中、登場人物4人、ひっきりなしに酒を飲みながら、ほとんど部屋の中をモノクロの映像が左右にふれたり、広角のショットやズームアップで多様に語りかける。アルコールは仮面を徐々に剥ぎ取っていく。
ジョージも総長の娘と結婚したのは、早く出世の階段を上り詰めたいからだし、ニックにしても妻の父が大金持ちが理由だった。男だけがこんな不遜な考えではない。ハニーにしても想像妊娠でニックを惹き付けたという。
心の不安定なマーサーが放つ罵詈雑言と付き合い「想像上の息子」を作り上げてきたジョージは、マーサーがニックと寝たことを潮時と見て「息子は死んだ」と断言する。打ちひしがれるマーサー。
さて、この夫婦の将来は? ジョージが出て行くという説もあるが、私はそうではないと思いたい。「オオカミなんかこわくない」と口ずさむジョージに「怖いわ」と言いながらジョージの手を握るマーサー。その先の夜明けのショットは、希望と見たがどうだろう。
この映画の監督の演出で三幕の戯曲をブロードウェイで上演されたのを映画化したという。そしてこの表題については、劇中歌の「オオカミなんか怖くない」のオオカミ(wolf)をイギリスの有名な小説家ヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)に置き換えたもので、劇中歌の駄洒落として登場するという解説がある。
さて、そんなに単純なんだろうか。 と思う。ヴァージニア・ウルフも精神を病んでいて最後には夫レナード・ウルフに「私の人生の幸せは、すべてあなたのおかげです」と書き残して家の近くの川に入水する。この辺が重なっているように思えてならない。いずれにしても名作に違いない。
第39回アカデミー賞では主演女優賞にエリザベス・テイラー、助演女優賞にサンディ・デニスが受賞。ほかに撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞も受賞している。
エリザベス・テイラーはこのとき34歳なのに体重を10キロも増やし髪の毛をグレイに染めメイキャプで中年女にしたという。「若草物語」の美しさと比べると、これがリズ? と疑いたくなる。けだし名演技だった。
アメリカン・フィルム・インスティチュートの2007年歴代ベスト100の67位にランクされいる。なお、余計なことかもしれないが、この映画で性的な表現「Fuck」をはじめて使ったといわれる。
監督
マイク・ニコルズ1931年11月ドイツ、ベルリン生まれ。2014年11月没
キャスト
エリザベス・テイラー1932年2月イギリス、ロンドン生まれ。2011年3月没
リチャード・バートン1925年11月イギリス、ウェールズ生まれ。1984年8月没
ジョージ・シーガル1934年2月ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。
サンディ・デニス1937年4月ネブラスカ州リンカーン生まれ。1993年3月没。