ニュースで伝えられるいわゆるオレオレ詐欺。一向になくならない。なくならないのは当然というのがこの本だ。
先に日記で書いた映画「パワー・ゲーム」のオープニングのナレーションは、「僕らは未来への希望を奪われた世代だ。親の世代の成功者たちがあらゆる汚い手を使い富を握っている。昔は勉強していい大学へ進めばいい会社へ、そして15年も頑張れば独立できた。今じゃ夢さ。高望みするなと周囲は諭すけど、僕は無視した。川の対岸(マンハッタン)は輝いていた」
この文脈の「川の対岸は輝いていた」を「詐欺の本部は輝いていた」といい直してもいいくらいだ。
著者あとがきにはこうある。「高齢化社会とは、生産力を失った多くの高齢者を少数の若者が支える社会。そして、かつてないほどに拡大した若者と高齢者の経済格差と、努力しても報われることがあまりに少ない現代の若者の世代感から、必然的に「支えることより奪うこと」を選ぶ者は生まれた。これが老人喰いだ」とある。
アメリカ映画のナレーションも同様だから、これは世界的な傾向なのだろう。こういう論理で片付けられたらたまったものではない。この本は若者を擁護している側面もあって全面的に支持できない。甘えの構造としか思えない。
「投資の神様」として有名なウォーレン・パフェット(84歳)という人は、投資会社バークシャー・ハザウェイを時価総額で全米トップ5まで成長させるという手腕の持ち主。経済誌フォーブスが発表した2015年の世界長者番付では、保有資産727億ドル(約8兆7千億円)3位という大金持ち。
ところが遺産は、99%寄付すると公言しているらしい。この人の人生哲学が素晴らしく、今も住んでいる家は1958年に約3万ドル(360万円)で買ったものだという。10代半ばで始めた新聞配達の仕事で稼いだ資金を投資に当てたのが始まり。犯罪で稼ぐなんて言語道断、どんな理由をつけても認められない。こういう人生の先達に学ぶべきだ。
そして奪うことの論理が、「貧乏人から奪うんじゃなくて、持てる者からその一部をいただく」となれば根を根絶しないとなくならない。ところがその根の根絶がかなり難しい。
商売をするには拠点が必要だ。その拠点を確保するには資金が要る。その資金源、つまり金主を摘発しないと詐欺師はなくならない。その金主にたどり着くのは絶対不可能とこの本はいう。
ニュースでオレオレ詐欺の集金係が逮捕されたというのがあるが、集金係から遡るのは至難の業らしい。なにせ集金係は、顔も知らない名前も知らない人間から携帯電話で指示されるだけだ。そして受け取った現金は、指定されたベンチの下に置くとか、コインロッカーに入れるとかで手渡しはしない。徹底的な警戒網が敷かれている。
これだけでも分かるように詐欺の手口は巧妙極まりない。詐欺の電話がかかるという事は、その家に金があると分かっているからだ。実に怖いことだ。
しかも電話では、3人の劇場型脅迫が行われる。いろんなケースが想定され、交通事故ならまず息子、おどおどして声もかすれ何を言っているのかよく分からない。するとすばやく警察官や弁護士を名乗る男が出る。そして頃合に被害者の男が恫喝する。電話口の高齢者は、動転してしまう。そして言いなりになる。
つまりやつらは、演技しているんだ。詐欺の本部では、名簿によって電話をかけている。この名簿が曲者。名簿業者がいるらしい。しかも、住所や電話番号に補強するため、警察の生活安全課を騙って情報を収集するという。警察の生活安全課といわれれば、誰だって信用してしまう。
その内容たるや微にいり細に入る。銀行預金はどこに幾ら? タンス預金の有無などだ。そして性格分析まで。こんな名簿があれば、詐欺師のシナリオは映画のようにやすやすと成功間違いなし。
さて、この本には防衛手段は書いていない。そこで私が思うには、どこのお宅にも所轄の警察署からオレオレ詐欺について小冊子やパンフレットのたぐいが配られていると思う。それはそれで重要だ。
そして誰も信用しないこと。たとえ警察だといわれても折り返し電話をすると言えばいい。本物の警察なら納得するし、詐欺師ならなんだかんだと電話を長引かせようとするだろう。そのときは、鬼になったつもりで一方的に切ればいい。おそらく再電話はないだろう。詐欺師も忙しい。可能性のないところへ電話はかけない。車のセールスじゃないから。
そして相手が言う電話番号へは絶対にかけないのが鉄則だ。それに電話がかかれば鬼になると、いつも呪文のように唱えていることだ。電話は、基本的に出ないと決めるのがいい。留守電で対処するのが得策だろう。若者を甘やかしている論理はいただけないが、詐欺の手口を知るという点で本書を読む価値がある。