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父親が目覚めるとき「エリザのために」2016年制作 劇場公開2017年1月ルーマニア語

2017-06-07 16:58:45 | 映画

               
 どこの国の人も自分の娘や息子にいい教育を受けさせ、将来を期待するものだ。ルーマニアの中部・北西部にあるトランシルバニアの小さな町に住む警察病院の医師ロメオ・アルデア(アドリアン・ティティエニ)もその一人。

 一人娘のエリザ(マリア・ドラグシ)は、イギリスの大学へ進学して心理学を学ぶ予定だ。そのためには高校の最終試験で90点以上の優秀な成績を残さなくてはならない。彼女には十分可能と踏んでいるロメオ。

 試験を翌日に控えた朝、いつものようにエリザを車で学校に送っていく。この日は校門前でなく一つ手前の交差点でエリザを降ろした。ロメオは急いで女の部屋へ急ぐ。早朝の情事というわけ。悪い知らせは悪事に重なるのか、情事が佳境に入ったとき携帯が鳴った。「エリザが暴漢に襲われてレイプ未遂で怪我をした」というものだった。

 エリザの動揺は深刻だったが、試験に集中できるのか不安を抱え込んだのはロメオだった。さあここからが問題だ。ロメオは必死でエリザの合格にあらゆる手を使う。

 昵懇の警察署長から副市長へ、そこから校長へエリザを置き去りにした作為が進む。映像で見る限りロメオの気持ちも分かる。古びた集合住宅の1階に住むロメオから見るルーマニアは、決して住みよい国とは思えない。エリザの幸せを思って英語の特訓までしてイギリス留学を夢見てきた。それを目前に不幸が襲うとは許しがたい。

 しかし、不仲な妻もエリザにしてもルーマニアを離れることにそれほど固執していない。思い入れはロメオだけ。挙句の果てに妻から追い出されるロメオ。しかも副市長の汚職関連で検察の事情聴取の対象にもなる。自己中心の男に愛想を尽かした妻、もてあます愛情を娘に向け男の本能はかつて治療を通じて知り合った小学校教諭の一児の母と共有の時間を過ごす。世界中どこにでもいる男。その男があっけなく改悛するというお話。

 この映画の映像が今のルーマニアを表しているのだろうか。集合住宅の外壁は黒ずんで汚れ、室内のキッチンは狭く小さな冷蔵庫が見える。テレビ、あったかな。今から約30年前の日本を連想するが。

 それに医師なのにこういう住宅に住んでいるとは。アメリカやフランス映画では、医師ともなればプール付の豪華な屋敷住まいが多いが。ロメオが外国に目を向けるのも致し方ないかもしれない。ちなみにルーマニアの人口は1千9百万人ぐらいで、名目GDPが11,000ドルぐらい。日本は40,000ドル。

 卒業記念写真撮影のとき、エリザが笑顔を見せたのがこの映画の唯一つの微笑だった。この映画を監督したクリスティアン・ムンジウは、2007年「4ヶ月、3回と2日」でカンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞を受賞。本作でも監督賞を受賞している。こういうテーマで2時間を見せる力量がある。眠くならなかった映画の一つ。
 
監督
クリスティアン・ムンジウ1968年4月ルーマニア生まれ。

キャスト
アドリアン・ティティエニ出自不詳 
マリア・ドラグシ1994年ルーマニア生まれ。


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