初恋の人は忘れられないと言われる。再会するチャンスは殆どない。それが一通の法律事務所からの通知で、身の周りに起こるのがロンドン在住のトニー・ウェブスター(ジム・ブロードベント)だった。
法律事務所が開示した書簡は「親愛なるトニー 添付品をあなたに遺します。エイドリアンの親友に…… 心が痛むかもしれませんが、遠い昔の思い出の品です。お金も少々遺します。奇妙に思うでしょうね。自分でも理由は分かりません。あなたの幸せを祈っています。セーラ・フォードより
追伸 彼の最後の数ヶ月は幸せなものでした」とあった。
トニーは、解せない思いだった。添付品を遺すといいながら入っていないし、もっとおかしなのはセーラ・フォードが手紙をくれたことだ。セーラ・フォードは、トニーが学生時代の初恋の人ベロニカの母親なのだ。それがエイドリアンに言及していることも不可解。
法律事務所に出かけてみたが、添付品が「日記」ということが分かっただけ。しかもその日記は、ベロニカが持っていて渡す気がないらしい。法律事務所は、本人の承諾がいるということで、ベロニカの住所も教えてくれなかった。
トニーは、王室顧問弁護士の元妻マーガレット(ハリエット・ウォルター)に相談がてら今まで話さなかったことを話すことになった。元夫の初恋の女の話を聞くなんていい気持はしない。「それでセーラーとベロニカのどっちと寝たの?」という嫌味もでる。トニーは、どっちとも寝てないよ。それに娘スージー(ミッシェル・ドッカリー)の出産も間近に控えていた。
トニーは学生時代の友人コリンとアレックスに会った。話題はベロニカとエイドリアンに移った。ベロニカについては「イカれた女でミステリアス」
エイドリアン・フィンは「自殺した」
学生時代、転校生のエイドリアン・フィンは、頭脳明晰でハンサムだった。トニーたちは、自分たちの仲間に入れた。エイドリアンにベロニカを紹介したのがトニーだった。
コリンとアレックスに助けてもらって、ネットでベロニカにたどり着いた。送った手紙の返信が、留守電に入る。「9時にグラグラ橋で」カフェでベロニカは、当初日記といったものを明らかにしなかったが、用事があるからと言って手紙を置いて立ち去った。
その手紙は、トニーがベロニカとエイドリアンに宛てたものだった。「エイドリアンとベロニカへ よう、ビッチ(この野郎と理解した方がいいかな)僕の手紙にようこそ お似合いの2人に大いなる喜びを 君らが泥沼にハマリ、永遠に傷つきますように。 君らに子供が出来ることを願っている。僕は時間の復讐を信じるよ。だが、君らの股ぐらの産物に、悪意をぶつけるのは間違いだろう。エイドリアン 彼女とヤリたいなら、一度別れてみろ。下着を濡らしてコンドーム持参で乗り込んでくるぜ。僕のときはそうだった。ベロニカは人を操る女だ。彼女の母親にも忠告された。一度母親と話してみろよ。“いい女だぜ” 君らが泥沼にハマリ、永遠に傷つきますように」トニーは冗談で言った部分もあるだろうが、おぞましい手紙に違いない。これが添付品だった。
トニーがこの手紙を送ったのは、エイドリアンから「ベロニカとつき合い始めた」という断りの手紙に対してだった。
歳をとった今のベロニカは、階段に座ってトニーから届いた手紙を読み始めた。「私はノスタルジーという病にとりつかれていたのか? 確かに感傷はある。それで思い出した。
学生時代の友人たち
一度だけ踊った女(ベロニカのこと)
藤の花の下で密かに振られた手(ベロニカの母親セーラのこと。セーラは、トニーに色目を使っていた)
エイドリアンの歴史の定義(教師と熱っぽく論戦していた)、私の人生に起きた出来事。
その幅の狭さ。私は失うことも得ることもせず、傷つくのを避け、それを自己防衛と呼んだ。君と私の人生は、一時期歩みを共にした。今、振り返ると短い間ではあったが、驚くほど心を揺さぶられる。君のその後を知らずにすまなかった。教えてくれていたらと思うが…いや、教えてくれたね」
初恋の人に再会すれば、間違いなく恋の炎が燃え上がるのは確かなようだ。終盤、映画は意外な事実を告げる。これがミステリーと言われるゆえんで、ベロニカの無表情が理解できる。
トニーは、ベロニカに「すまない」、元妻に至らなかったことを「すまない」と言い、娘にも迎えが遅くなって「すまない」。人生長生きすると不義理や不都合も重なり、「すまない」が多くなる。
が、娘の出産にも立ち会い、娘から感謝され、元妻からは止まっていた時計の代わりに新しい時計を贈られた。そんなことでトニーの日ごろの頑固さや偏屈も改善の兆しも見え始めた。毎朝出会う外国人の郵便配達人にも、以前は無視に近かったがこの頃では「コーヒー飲むかい?」という変わりよう。
この映画の批評家の評価は、トニーを演じた「ジム・ブロードベントの演技によるところが大きい」が代表的な意見らしい。2017年制作 劇場公開2018年1月
監督
リテーシュ・バトラ1979年6月インド、ムンバイ生まれ。
音楽
マックス・リヒター
原作
ジュリアン・バーンズ「終わりの感覚The Sense of an Ending」
キャスト
ジム・ブロードベント1949年5月イギリス生まれ。2001年「アイリス」でアカデミー賞助演男優賞受賞。
ハリエット・ウォルター1950年9月イギリス生まれ。
ミッシェル・ドッカリー1981年12月イギリス生まれ。
エミリー・モーティマー1971年12月イギリス、ロンドン生まれ。
シャーロット・ランブリング1946年2月イギリス生まれ。2015ねん「さざなみ」でアカデミー賞主演女優賞にノミネート。
ジョー・アルウィン1991年2月イギリス、ロンドン生まれ。
若き日のトニー ビル・ハウル1989年11月イギリス、イングランド生まれ。
若きにのベロニカ フレイア・メイヴァー1993年8月イギリス、スコットランド、グラスゴー生まれ。