ニューヨークでの出版記念朗読会を終えたドイツ人の作家マックス・ゾーン(ステラン・スカルスガルド)は、偶然にも恩師ウォルター(ニエル・アレストリュフ)と再会する。妻クララ(スザンネ・ウォルフ)を紹介するが、どことなく冷やかな空気が流れる。ウォルターと別れてからクララが「気味の悪い人ね」
とは言ってもマックスにとっては無視できない人なのだ。アメリカで発売される新刊は、クララの勤めている出版社が担う。夫婦はドイツとニューヨークに別々に暮らしている。理由は定かでない。歩道を歩くマックスの腕に寄りかかりながら「ドイツに飛んでいきたい気持ちになるわ」
滞在中の秘書のような仕事を受け持つリンジー(イシ・ラボルド)にマックスは言う。
「ウォルターにレベッカの携帯番号を聞いてくれ」
リンジーが「レベッカ?」
「共通の古い友人だ」
このレベッカ(ニーナ・ホス)こそ過去に熱情を捧げ自分本位の別れ方をした相手だった。レベッカを訪ねたとき、大手法律事務所の企業担当弁護士であることが分かる。白いブラウス、黒いスカートにハイヒール、控えめの化粧に不信のまなざしと圧倒的な存在感は相手をたじろがすには十分だった。
マックスは密かに畏敬に念を覚えると同時に「なぜ、俺はこんな素敵な女性を無視するかのように別れたんだ」と思ったことだろう。夜半に酔っぱらってレベッカのマンションに押しかけたが、レベッカの友人女性ともども退去を余儀なくされる。そんな週末にレベッカから電話が入る。「週末にモントークに行くから、一緒に行くなら時間に来て!」
このモントークは、マンハッタンから200キロ離れ、ロングアイランドを車で3時間ほどかかる。レベッカはベンツの小型SUV車のハンドルを握る。ドイツ人だから当然ベンツだろう。間違っても日本車にはならない。モントークの友人所有の別荘に友人はいなかった。二人は海浜のホテルに泊まることになる。
ドアは別々だが中で部屋の境にドアがあって行ききが出来る。多人数の宿泊に向いている部屋だった。(いきなりWベッドとしないところは、男女の心理を現わしている。そう、なんでも段階を踏まないとね)
モントーク岬の渚をレベッカと一緒に歩くと、過去の思い出がよみがえる。クララという妻がありながら、心から愛していたのはレベッカだと気づくマックス。その夜、ベッドでガラス張りのシャワー室にいるレベッカを眺める。上気した顔のレベッカがするりとベッドに入ってくる。マックスは思いっきり抱きしめる。(ここで気づいた。マックスの左手首に腕時計が見える。これはないだろう。普通はマックスもシャワーを浴びている筈。これは監督のミスだろうか)
男というのは情けないことに、レベッカを征服した気になっているようなのだ。こんなことを言う。「クララと別れるから、一緒になってくれ」(これはいくらなんでも子供っぽくないかな。自分の都合ばっかりの男)
さすがにレベッカは、「同じ弁護士で死んだ恋人がいたの。彼の心の中に入ってしまったから……」断然拒否だ。マックスは淋しくドイツに帰るが、男は昔の恋人とよりを戻したがるが女はその点ハッキリしていて過去にこだわらない。 と私は思う。
マックス役のステラン・スカルスガルドとレベッカ役のニーナ・ホスのバランスが悪い気がする。ステラン・スカルスガルドは、見た目あまり垢抜けしない。実年齢も66歳。せめて50代の雰囲気のある俳優はいないのかな。
このDVDには監督の特別映像が入っている。それによると「これは監督の体験から作られていて、クララという妻がありながら昔の恋人に執着するというマックスは愚かな男だ。私も愚かだった。レベッカの方がしっかりと分かりやすい」という。
それに邦題の「男と女」は不要だろう。「モントーク岬で」がすっきりする。原題も「Return to MONTAUK」だから。
映画に挿入されているBGMはよかった。ドイツ生まれイギリス育ちに作曲家・ピアニストのマックス・リヒター(Max Richter)で、ポスト・クラシカルの二大巨頭の一人。映画音楽も手掛けている。
マックス・リヒターの「Lullaby From the Westcoast Sleepers」をどうぞ!
監督
フォルカー・シュレンドルフ1939年3月ドイツ、ヴィースバーデン生まれ。1979年カンヌ国際映画祭「ブリキの太鼓」でパルムドール賞受賞。2014年「パリよ、永遠に」でフランスのセザール賞脚本賞受賞。
キャスト
ステラン・スカルスガルド1951年6月スウェーデン生まれ。
ニーナ・ホス1975年7月ドイツ生まれ。
スザンネ・ウォルフ1973年5月ドイツ生まれ。
ニエル・アレストリュフ1949年2月フランス生まれ。
イシ・ラボルド出自未詳