認知症の映画である。内閣府が発表する我が国の65歳以上に占める認知症の割合が2025年に20%、5人に一人になり、2060年には33.3%、3人に一人という予測をしている。寿命が延びれば当然認知症患者も増えるということになる。いずれ完治するようになるかもしれないが、当面深刻な状態が続く。
この映画は認知症を患うアンソニー(アンソニー・ホプキンス)を支える娘アン(オリヴィア・コールマン)とのおかしさと哀しさが描かれる。
アンソニーは、イギリス特有のフラットとかテラスハウスとかで呼ばれる住宅に住んでいる。その住宅に向かうアンの描写から始まる。まだアンソニーは自分の娘に向かって「あんた誰?」という段階でないにしろ病状は進行する。
これを演じたアンソニー・ホプキンスは、第93回(2021年)アカデミー賞の主演男優賞を受賞する。アンを演じたオリヴィア・コールマンは、助演女優賞にノミネートされた。
ほとんどフラットの部屋での展開。こういう舞台劇のような演出には、俳優の力量が試される。83歳のアンソニー・ホプキンスは、「演技というものは絵空事であって、その要素はすべてシナリオの中にある」という持論のもと、シナリオのチェックや暗記は徹底していて役柄になり切った演技を見せる。1991年の「羊たちの沈黙」に次ぐ主演男優賞だった。
アンを演じたオリヴィア・コールマンは、1974年生まれの47歳。彼女も2018年「女王陛下のお気に入り」で主演女優賞を受賞している。
私は映画やドラマを観るとき、街のたたずまい、郊外の風景、住宅のデザインや部屋の様子それに使われている音楽に関心が向く。
アンソニーのフラットも結構広い。4LDKぐらいはありそう。そんなのを観ながら、掃除は誰がする? なんて思ったりする。キッチンも広い。映画の中のキッチンだからすっきりしている。家庭の匂いはしない。ただ、水を使うキッチンには手を拭くタオルが必要で、わたしなんかはシンクの前にある引き出しの取っ手にぶら下げている。この映画はどうかとみれば、やはり取っ手にぶら下がっていた。ニヤリとした。