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映画 へイデン・クリステンセン「ニュースの天才(03)」

2005-09-22 14:09:48 | 映画
 最近も朝日新聞長野支局記者の捏造記事事件があった。この記者の場合、すぐばれるのが分かっているはずなのに、捏造する心理が分からない。分かりたくもないが。

 実話を題材にしたこの映画の場合は、スティーブン(ヘイデン・クリステンセン)が自分の才能に酔いしれた挙句、破滅の闇に飲み込まれる。1914年に創刊されたニュー・リパブリック・マガジンは、政治的論評を得意とし、エア・フォース・ワン(大統領専用機)にただ一社搭載される雑誌として有名だそうだ。98年5月のライター/エディター数は15名、平均年齢26歳、最年少ライターがスティーブン・グラス、この映画の主人公である。最終的に判明したのは、スティーブン・グラスの書いた記事41のうち27が捏造だった。


 どんな動機があって捏造記事を書いたのか?二重三重のチェック体制があるにも拘らず記事になったのか?映画は明らかにしてくれるが、動機については明快さが欠けている。このDVDにはスティーブン・グラス・ドキュメントというのがあって、あるテレビ局のインタヴューを受けている。

 スティーブンは「初めは記事の一部を偽って書いているだけだったが、やがてエスカレートして全体を捏造してしまう。記事を面白くするためにネタを試しに自分で作ってみたら、あまりにいい出来なので思わず使ってしまった。でも掲載された記事を見る度に何度も考えた“もうやめよう”って、でもできなかった。あまりにも反響が大きく病みつきになった。編集会議でアイデアを話すとみんな興奮して聞いてくれる、その快感が忘れられなくなった」セックスの次に好ましいもので、一種の麻薬効果と言ってもいいのだろう。

 そしてグラスの元同僚であるレオン・ウィーゼルティールと言う人は「彼の捏造は完璧だった。出来すぎとも思える内容は読む者の心をとらえ続け、彼の記事の特徴となった。彼が語るストーリーはどれをとっても生き生きとして印象的だった。驚くべき想像力だった」という。

 この映画に出演した俳優の一人は、スティーブンは小説を書いた方がよかったのでは?という。その通りだ。捏造が発覚する発端が、「ハッカー天国」という記事だった。それに目を留めたのがビジネス誌「フォーブス」のアダムという記者だった。グラスは嘘を積み重ね遂には破滅に追い込まれる。あまりにも出来のいい捏造記事のため、書いた本人が真実と錯覚するという怪奇現象に落ち込んだのではないかと思う。

 で、映画の方はというと「ハッカー天国」の記事を巡って裏をとるという作業が行われ、グラスは架空の人物、場所、事件、団体という膨大な嘘を繰り出す。この辺はなかなかスリリングな展開で楽しめたが、ほとんど室内の映像で空間の広がりに欠けて、ややもの足りなさも感じる。実話とはいえ少しは脚色もあっていいと思うが。

 スティーブン・グラスを演じたヘイデン・クリステンセンは頭脳明晰で人好きのする明るいキャラクターの反面、他人には自分の所業を棚に上げて“不確実な記事やミスは許されない”と言う複雑な人物を難なくこなした。

 私はむしろ編集長チャックを演じたピーター・サースガードが気に入った。クビになった編集長の後を受け、部下からのさげすみの眼差しにさらされながら毅然と自分の立場を無言で主張し、正しいことを敢然と実行する男を静かな演技で表出する。最新作「フライト・プラン」では、ジョディ・フォスターと共演する。

 この映画の監督ビリー・レイは脚本家で、初めての監督作品である。ヘンデン・クリステンセン1981年4月カナダヴァンクーヴァー生まれ。ピーター・サースガード1971年3月イリノイ州スコット空軍基地生まれ。「K-19」「キンゼイ」ほか
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