市場関係者の師走の忙しさに、拍車をかける出来事が起こった。日本銀行は12月19~20日に開催した金融政策決定会合で「不意打ち」とも言える政策修正をアナウンスした。短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に据え置く「長短金利操作付き・量的質的金融緩和(イールドカーブ・コントロール=YCC)」の枠組みは維持しつつも、長期金利の変動許容幅を従来の0.25%程度から0.5%程度に広げる方針を決めた。社債や貸出等の金利の基準である10年国債利回りの上限を引き上げる決定は金利上昇を認めることを意味し、事実上の利上げと言える。

 市場関係者の間では、大規模な金融緩和策の現状維持が見込まれていただけに、このサプライズに金融市場は大混乱した。20日の金融市場では10年国債利回りが0.25%から0.46%まで上昇。ドル円相場は1ドル=130円台まで上がり円高が進んだ。日経平均株価は一時800円を超える下落となった。

記者会見に臨む日銀の黒田東彦総裁(写真=共同通信)
記者会見に臨む日銀の黒田東彦総裁(写真=共同通信)

 「これは利上げではない」。20日の政策決定会合後の記者会見で、黒田東彦日銀総裁は何度もこの言葉を繰り返したが、市場は静まらなかった。なぜならこれまでの日銀は、長期金利の変動許容幅の上限引き上げは事実上の利上げであるというスタンスを崩していなかったからだ。例えば内田眞一日銀理事は、5月10日の参院財政金融委員会で「(長期金利が)今は上限に張り付いているので、(長期金利の変動許容幅の上限の引き上げは)事実上利上げするということになる。日本経済にとって好ましくない」と述べている。黒田日銀総裁も、9月26日に大阪市内で開催された関西経済4団体との懇談会後の記者会見で、長期金利の上限引き上げは利上げに当たるのかとの質問に対して「それはなると思う」と明言していた。

 日銀に対する市場の疑心暗鬼は、外国為替市場における個人投資家の動きを見ても明らかだ。21日正午(日本時間)の時点でも、ドル円相場は1ドル=130円台前半で推移しており、政府・日銀が9月および10月に実施したドル売り・円買い為替介入直後に見られた円安局面への揺り戻しと捉えられるような動きは起こっていない。

 「サプライズ緩和縮小でドル円相場の方向感が読みにくくなった。しばらく個人投資家のドル円取引は沈静化するだろう」。外為どっとコム総研の神田卓也調査部長はこう話す。外為市場では9月以降の1ドル=140~145円くらいから、個人投資家の円売り・ドル買いポジションが大きく膨らんでいた。為替介入直後にドルを買えば大きく儲けられると味をしめた個人投資家のドル買いは、6兆円超という過去最大額を投じた為替介入効果を弱めていた。米利上げが進むにつれて拡大する日米金利差も、FX投資家の「スワップポイント」と呼ばれる金利収入増の要因につながるため、ドル買いを加速させていた。

 しかし、1998年以来となる1日7円弱もの円高は、これまでの儲けを一気に吹き飛ばすインパクトを与えた。急激な円高進行で取引時の証拠金維持率が一定の水準を下回り、損失拡大回避のために強制的にポジションを解消させられる「強制ロスカット」に見舞われるFX投資家が続出。12月20日のツイッター上では「爆死」「先月からの勝ち分300万円がすべて消えました」「年金がなくなってしまった」など、個人投資家の阿鼻叫喚ともとれるつぶやきが響き渡った。