8時、起床。
「蒲田屋」に行ってお稲荷さんとおはぎ(つぶあん)を購入。「あとひと月ほどになってしまいましたね」と奥さんに話しかけると、「そうなんですよ。あと2年くらいやりたかったですけど、ビルを立ち退かないとならなくなったので、しょうがないです」と残念そうに言われた。今年で開店して48年。切よく50年までやりたかったということだ。「でも、元気なうちにやめて、好きなことでもした方がいいと今は気持ちを切り替えているんです」。そうですね、ぜひそうなさってください。
家から蒲田屋への行き返りに野良猫のナツとすれ違う。他人のふりをするなよな(笑)。
その様子を2階のベランダからハルが見ている。家猫は見ていた(笑)。
サラダとお稲荷さんとおはぎの朝食。(おはぎも二個買ったが、一個は妻へ)
11時に家を出て、早稲田へ。今日はふた月に一度の句会の日。場所は「カフェゴトー」。
本日の出席は7名。紀本さん、恵美子さん、あゆみさん、渺(びょう)さん、月白さん、まゆこさん(理衣さん改め)、私(たかじ)の7名。これに投句のみ参加の天豆さんとこかよさんの2名を加えて、本日の作品は9名×3句の27句。作品がいつもより多めということで、選句は一人5作品(天=5限が1句、地=3点が2句、人=1点が2句)としますと紀本さん提案があった。
各自、自分の好きなケーキと飲み物を注文。私はタルトタタンとアイスアップルティー
紀本さんが全部の作品を読み上げてから、選句開始。
まゆこさん、紀本さん。
恵美子さん、あゆみさん。
渺(びょう)さん、月白さん。
私は以下の5句を選んだ。
天 春風が乗っては降りる西武線
早春らしい気持ちのよい句である。「西武線」という固有名詞も効いている。たぶん「東武線」ではダメだ(東武線沿線の方には申し訳ないが)。逆に「外房線」ではピッタリすぎて鉄道のポスターみたいになってしまう。
地 ふるさとを知らぬ四月のスニーカー
新しい土地に引っ越して、その街で買ったスニーカー。この場所でこれから生きていくのだという気持が感じれられる句である。「スニーカー」という軽快な言葉が効いている。これが「炊飯器」や「洗濯機」では生活感が前面に出すぎる。
地 三分の電車の遅れ春みぞれ
これも「春風が・・・」と同じく電車をモチーフにしているが、作者は電車の中にではなく、ホームにいて、電車は三分遅れるというアナウンスを聞いている。その三分が長く感じられるのは、みぞれの降る寒い日だからである。三寒四温。春を感じる日もあれば、冬を感じる日もある。それがいまの時期だ。
人 過ぎし日の悲憤のようなゴム風船
「風船」は春の季語。私の好きな句に「風船が乗って電車のドア閉まる」(今井千鶴子)というのがある。しかしこの句は春の季語としての風船のイメージを裏切っている。そこに惹かれた。「過ぎし日の悲憤」という言葉から、パンパンに膨れている風船ではなく、空気が抜けて、萎れて、地面に落ちている風船をイメージした。
人 幼子が前に踏み出す多喜二の忌
『蟹工船』や『党生活者』で知られる小林多喜二が、特高警察の拷問的な取り調べ中に獄死したのは、1933年の2月20日だった。そういう多喜二の命日と幼子が歩みを始めることの取り合わせの妙に惹かれた。「風船」と「悲憤」の取り合わせもそうだが、似たものを組み合わせるよりも、違うものを組み合わせた方が面白いというのは、シュールレアリズムの感覚である。それは日常の否定ではなく、日常を見つめるありきたりのまなざしの否定である。
さて、みんなの選考も終わり、各自が自分の選んだ句を披露し、集計の結果は以下のようになった。
11点 過ぎし日の悲憤のようなゴム風船 恵美子
今回の特選句。渺さんとまゆこさんが天、私が人を付けた。恵美子さんはいま妊娠6か月。見た目にはそれとまだわからないが、本人は身重感で疲弊している。そうブログに書いている→こちら。いまからそうだと、これからゴム風船のようにお腹が膨れていくとどうなっていまうのだろうか。
10点 ふるさとを知らぬ二月のスニーカー あゆみ
渺さんとまゆこさんと私が地、恵美子さんが人を付けた。あゆみさんは来月の中旬、所沢から浜松に引っ越しをする。所沢は彼女が大学進学で上京して以来15年間を過ごした土地で、第二の「ふるさと」と呼んでもよい場所である。もしそういう情報を知らずに鑑賞すれば、むしろ大学進学で上京した若者が新しいスニーカーを履いて東京での新生活をスタートするという句に読めるのではないだろうか。
8点 クレーン車は大空を架け春動く 恵美子
月白さんが天、紀本さんが地を付けた。大きなクレーン車が何かを吊り上げていく情景というのはしばしば目にするが、ここでは背景としての空そのものを吊り上げているのである。まるで空を描いた大きな大きな看板を吊り上げていうみたいに。その看板が風にゆらゆらと揺れている。それが春の胎動を感じさせるのである。個人的には「クレーン車は」の「は」の使い方にひっかるものがあり(なぜわざわざ「は」と付けたのか)選ばなかった。
8点 春炬燵ややこしい家族関係 紀本
月白さんとあゆみさんが地、渺さんとまゆこさんが人を付けた。「春炬燵」と「家族」の組み合わせは「一家団欒」を連想させるが、実際の家族はそう単純ではなく、ややこしいものであるという、「そうですよね」という共感を得る句である。個人的には、「春炬燵」という季語と「ややこしい家族関係」というモチーフが、句作ノートのメモ書きの段階に留まっている感じがして選ばなかった。
6点 雪像解体夢の跡にも遊べる子 蚕豆
恵美子さんとあゆみさんが地を付けた。雪まつりを夢の国だとすれば、雪像が解体された後は夢の跡である。大人にとっては「まつりの後」であるが、子どもにとっては遊び場所としてまだ生きているのである。「一粒で二度美味しい」グリコのようなものである。子ども視点であるが、同時に理知的な句である。
6点 ホワイトアウト友とはぐれてまた明日 蚕豆
あゆみさんが天、恵美子さんが地を付けた。ホワイトアウトとは猛烈な雪吹で視界がゼロの状態である。「ホワイトアウト友とはぐれて」とくれば相当危険な状態であるが(すわ遭難か!)、「また明日」で肩透かしを食う。危機的な状況に遭遇してもユーモア(気持の余裕)を喪わないハリウッド映画の主人公みたいじゃないか。私はニヤリをして、それだけでいいかな(選ばなくても)と思った。
6点 ときめきは補色弾ける実千両 渺
恵美子さんが天、月白さんが人を付けた。「実千両」(みせんりょう)とは上の写真のような植物。冬、人家の庭先によく目にする。「補色」にはいろいろな組み合わせがるが、ここでは赤と緑である。その鮮やかな対比に「ときめき」を覚えるという句である。普通、「ときめきは」とくれば「恋」を予感するが、それを人ではなく植物にもっていくところ、渺さんは草食系男子である。
5点 春風が乗っては降りる西武線 あゆみ
私ひとりが天を付けた。みんな「西武線」を軽んじているのだろうか(笑)。
5点 凍蝶を蘇らせたる彼の指 こかよ
紀本さんが天を付けた。「凍蝶」(いてちょう)とは冬まで生きながらえた(しかし死んだように動かない)蝶のことである。官能的な句であり、この分野に関しては、こかよさんの独壇場である(笑)。みんなうっかり選べずにいるが、主宰の紀本さんはたじろぐことなく選ぶのである。
4点 春暁やファラオのかたちで夫眠る まゆこ
恵美子さんが地、あゆみさんが人を付けた。「夫」は「つま」と読ませる。「ファラオのかたち」が分かりにくいが、エジプトのファラオ(王)の棺に描かれているような真っ直ぐに寝て腕を胸の前で交差させて寝ているということのようである。寝相がいいというべきなのだろうか。
4点 春悲し精一杯の笑顔かな たかじ
あゆみさんから地、渺さんから人をいただいた。作者が明らかになる前に、恵美子さんが「これはたかじさんからあゆみさんへの送別の句ですよね」と言った。はい、その通りです。この場合、笑顔は誰の笑顔かというと、私、あゆみさん、両者の3通りが考えられるが、作者としてはあゆみさんの笑顔(泣きそうなのを堪えて)のつもりである。
3点 個性的な桃ぞろぞろと雑魚寝する 紀本
まゆこさんが地を付けた。「桃の花」は春の季語だが、「桃の実」は秋の季語である。もしこれが8月の句会に出ていれば、「キング・オブ・ピーチメルバ」の私としては選ばないわけにはいかなったであろう。
3点 突然の雪不意打ちの恋に似て たかじ
月白さんから地をいただいた。彼女曰く「恋ってするものではなく、落ちるものですよね」。先日の東京の雪は予告されたものではなく、不意打ちのものだったので、一種のときめきがあった(東京人の感覚であろう)。月白さんの旦那さん(渺さん)ならそのときめきをたぶん何か植物に喩えただろう(笑)。
3点 春暁やカンダタは糸を待っている 月白
渺さんだけが地を付けた。「カンダタ」は芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』の主人公である。それを理解している人が少ないことに月白さんはため息をついていた。私は早稲田大学の教員として責任を感じ、地団駄を踏んだ。
1点 幼子が前に踏み出す多喜二の忌 蚕豆
私だけが人を付けた。多喜二とたかじが音が居ているからではない。他に誰も選ばなかったのは、幼子と多喜二の組み合わせが唐突すぎたからだろうか。
1点 東風吹くや家族ぼっちの新天地 あゆみ
まゆこさんが人を付けた。「東風」(こち)という古語を使ったのはどうかという意見に対して、あゆみさんは「東風」「家族ぼっち」「新天地」で韻を踏みたかった」と言った。それはまた無理矢理ですね(笑)。昔、守屋浩という歌手が歌ってヒットした『僕は泣いちっち』という歌があったことを思い出した。
1点 梅が香に嗅ぐということ思い出す 渺
月白さんが人を付けた。「カンダタ」の句を渺さんだけが選び、「梅が香」の句を月白さんだけが選ぶ。いつものインサイダー取引疑惑が浮上する(笑)。渺さんは自作を「素直な句」と言ったが、いやいや、「梅の香りを思い出す」ならそうだが、「嗅ぐということ思い出す」は自分の行為を対象化しているわけで、高度に知的な句である。
1点 嘘一つトッピングして春の月 月白
あゆみさんが人を付けた。兼題の「数字」を意識して「一つ」としたのだろうが、私の見るところ、月白さんはたくさん嘘をトッピングしていそうである(笑)。「嘘に嘘を重ねて今日の春の月」(たかじ)。
1点 春一番子らはペダルを強く踏む たかじ
紀本さんから人をいただいた。向かい風に抗して自転車のペダルを強く踏む子らの、その足首の部分にフォーカスを当てて詠んだ。
次回の句会は4月21日(日)。時間は通常より1時間遅く13時始まり。兼題は「む」(恵美子さん出題)。
時間のある人で「タビビトの木」で食事。
全員が「本日のランチ」のハノイ風フォーのセットを注文。
あゆみさんは次回は浜松からやってこれるだろうか(やってきてほしい)。
それと、これは今日明らかになったことだが、単身赴任で東京で生活していた渺さんが5月(6月?)から大阪に戻られるそうだ。そうするとご夫婦そろっての句会出席は次回が最後になる可能性がある。月白さんは渺さんに会い上京するついでに句会に出ておられたのだ。これからは遠隔参加(投句と選句)ということになるだろうが、関西には明子さんや花さんもいらっしゃるので、年に一度くらいは、親睦を兼ねて、関西で句会を開いたらどうだろうという案が出た。実現できたら楽しいと思うし、楽しいことは実現させたいものである。人生を楽しむためには努力が必要なのだ。
5時ごろ、蒲田に戻ってくる。
夕食は青椒肉絲、
サラダ、団子汁、ご飯。
ジャガイモで作った団子で、中にエビと鶏に挽肉が入っている。
2時、就寝。