今回も引き続き悪石島です。前回取り上げた「海中温泉」から道に戻り、さらに奥へ100mほど歩くと湯泊地区にたどり着きます。といっても民家は無く、温泉施設があるのみです。
島唯一の共同浴場「湯泊温泉」へ行ってみましょう。島の人の憩いの場であるこの共同浴場は夕方16時から22時まで開けられており、外部の人間も利用できます。
玄関の引き戸を開けると、正面には朽ちかかっているキッチンが据えられ、その左側にはお座敷が広がっていました。座敷の上には扇風機が3台も置かれています。亜熱帯の暑い陽気の中でお風呂に入ったら、それこそ全身に熱が籠って汗が止めどもなく出てきますから、扇風機の存在は非常にありがたいもので、私も湯上りに使わせていただきました。
この施設は常時無人で、当番の人が開錠や施錠、そして清掃などを担っているそうです。島民は無料で利用できますが、その際には台帳に列挙されている自分の名前のところにチェックを入れることになっています。人口が少なくて狭い島ゆえ、名簿の名前は苗字ではなくて下の名前が記載されているんですね。
一方、島外の人は利用の度に200円を支払います。揖保乃糸(そうめん)の古い木箱が料金箱となっていました。
画像左:共同浴場の運営に有志の方の寄付は欠かせません。座敷の壁には寄付者の名札がたくさん並べられており、島内のみならず日本各地から善意が寄せられているみたいです。
画像右:悪石島小中学校情報コーナー。これも座敷に掲示されていました。学校便りの他、給食便りや読書案内・保健便りなど、地元密着の施設らしいほのぼのとした雰囲気を放っていました。
キッチンの右手から伸びる細い廊下の先に男女別の浴室があります。脱衣室の戸を開けると、まるで湿気が前のめりで襲ってくるかのように、ムワっとした熱気が室内から廊下へ流れてきました。室内は棚があるだけの至ってシンプルな構造です。
共同浴場らしく室内には湯船がひとつあるだけで、その湯船は足を伸ばせば3人、膝を曲げて詰めれば6人は入れそうな大きさです。洗い場にはシャワー付き混合水栓が4基並んでいます。湯船のお湯が熱いため、その湯気が充満している浴室内はまるでサウナのような蒸し暑い状態となっており、脱衣室に籠っていた熱気はこの浴室も湯気が漏れていたわけです。
悪石島はトカラの他の島と比べて真水の確保に難があるようですが、そんな水事情が嘘であるかのように、湯口からは源泉がもの凄い勢いでドバドバと投入されており、浴槽手前側の縁から惜しげもなく贅沢にザコザコとオーバーフローしています。
加温加水循環消毒が一切無い完全掛け流しの源泉が浴槽へ注がれていますが、源泉温度が相当高く、湯船は54.8℃というかなりの熱さであったため、このままでは入浴できず、やむを得ずしっかり加水してから入浴することにしました。でもその水も炎天下のもとでタンクにずっと溜まっていたのか、ちっともつめたくなく(というかぬるく)、大量に薄めてもちっとも湯温は低下しません。それでも根気よく加水と湯もみを繰り返していたら、何とか我慢して入浴できる湯加減になったので、気合を入れて全身入浴してみました。が、やっぱり熱くて1分が限界でした…。
湯口から出てきたばかりのお湯を測ると57.2℃。分析表の湧出温度よりかなり高いのですが、外気温が高いことが影響しているのでしょうね。どうやら近所の海水温泉とは異なる泉質らしく、同じ鹿児島県の霧島界隈を髣髴とさせる重炭酸土類泉のような知覚的特徴を有しています。即ち、見た目は貝汁のような薄い灰白色を帯びた黄土色に濁り、土気+金気+石灰の味と匂いがはっきりと感じられ、更には薄い塩味やトマトジュースのような匂い、そして正苦味泉の要素や、何かが焦げたようなカーボンのような匂いも確認できます。金気や土気をメインにしていろんな匂いや味が混在しているとっても面白いお湯であり、その個性は霧島の重炭酸土類泉と比肩するか、それ以上のものを有しているように思われます。
この湯口から注がれるお湯を桶で受けると、必ず赤茶色の固形物がお湯の中に混ざっています。この固形物が浴槽の底にたくさん溜まっており、浴槽のお湯を動かすと固形物がブワっと舞い上がってお湯は余計に濁りました。
湯泊地区ではどこを掘っても温泉が湧くそうでして、この温泉の整備にあたっては60mほどボーリングしたんだそうです。もしこの温泉が霧島にあったら、近隣に湧く同系の泉質の温泉を凌駕する湯量とクオリティで、圧倒的な人気を集めそうですが、こんな熱いお湯を日中から入ろうとする人はおらず、2日連続で夕方にこの共同浴場を訪れましたが、いつ行っても誰もいませんでした。また、近年では各戸にシャワーが整備されていることから、島の住民でもわざわざここまで来て熱いお風呂に入ろうとする人も減ってきているんだとか。ちょっともったいない気がしますが、温泉を本土に運ぶわけにもいきませんし、利便性を求める島民の方の気持ちも至極ごもっともですから、致し方ありません。
浴室の窓の外にはガジュマルの木が茂っており、時折この木の隙間を抜けて海風が浴室に流れ込んできました。いかにも南国らしい風情です。
なお、水資源が乏しい島ですから、もし利用した際に熱くて水で薄めた場合は、使用後に必ず栓を締めましょう。また付近に自販機などは無く、飲める水道もないため、暑い日に利用する際は、水筒やペットボトルなどで水を携帯することをおすすめします。
悪石島1号
ナトリウム・カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 51.1℃ pH7.2 溶存物質1373.6mg/kg 成分総計1411.0mg/kg
Na+171.1mg(44.13mval%), Mg++:46.5mg(22.72mval%), Ca++:89.3mg(26.45mval%),
Cl-:220.2mg(40.35mval%), HCO3-:525.3mg(55.95mval%)
H2SiO3:253.0mg, 遊離CO2:37.4mg,
上集落から徒歩で、往路(下り)は25分、復路(登り)は30分(もちろん個人差あり)
体力に自信のない方は、宿泊先に頼んで車で送迎してもらいましょう
鹿児島県鹿児島郡十島村悪石島御嶽140-イ 地図
16:00~22:00
200円
備品類なし
私の好み:★★★