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わたしのレコード棚―ブルース42、Sylvester Weaver

2017年12月11日 | わたしのレコード棚
 Sylvester Weaver(シルベスター・ウィーバー)は、1896年ケンタッキー州ルイヴィルに生まれ、1960年に同地で亡くなっている。この人に関しては、手元に資料が少なく、なかなか詳しいことが今までわからなかった。というのも、ブルースというカテゴリーよりもっと多様な音楽を演奏出来る技術を持った人なので、ブルース関係の資料には載らない傾向にあることがある。実際、代表曲とも言える『Guitar Rag』などをコピーしてみると、スケール(音階)がブルーノートではなく、メジャー、つまりドレミ音階だ。
 しかし、前回の12/6に紹介したジャス・オブレヒト著『Early Blues-The first stars of blues guitar』にかなり詳しい記述があり、今回は主に、それを参照して書き進めることにする。

 シルベスター・ウィーバーは、1923年11月にニューヨークで最初の録音をしている。なので、おそらく最も早い時期に録音したミュージシャンの一人と思われる。オブレヒトによれば、「ウィーバーはブルースのインストゥルメンタル曲を録音した最初のギタリスト」(前掲著P23)という。当時、録音に使われた機材も原始的なもので、大きなラッパのような集音機に向かって演奏し、蝋管に振動を刻み込むようなものだったろう。話は少しそれるが、現在のような高性能マイクが発明される以前の録音では、楽器の音や人の歌声の大きさのバランスを取るのにさぞ苦労したに違いない。つまり、ギター弾き語りなどでは歌声が大きすぎる様な人はギターなどの楽器の音が小さくなってしまうし、逆の場合は楽器の音が大きくて歌声が聞き取りにくくなってしまう。実際の生演奏では力がある人でも、録音された物ではぱっとせず、逆に生演奏では迫力に欠ける人でも録音してみるとけっこう良かったりする。
 ウィーバーは、録音に向けたバランス感覚を持っていた人だった、と想像できる。


 DOCUMENTのCD、DOCD-5112。1923―1927年の録音22曲を収録。ギターソロの他、自身のヴォーカルやサラ・マーチン(Sara Martin)という女性ヴォーカリストのバックを勤めた録音が聴ける。サラ・マーチンは、当時すでにクラブなどで活躍するスターとしての地位を確立していた人だという。ウィーバーのギター演奏は、バッキングに回った時を含めて垢ぬけて無駄のないものに聴こえる。当時としては、かなりモダンに聞こえたものだろう。

 VESTAPOLレーベルのヴィデオ13037。箱に写っているのが、サラ・マーチンとシルベスター・ウィーバー。ただし、音や映像は収録されていない。

 1927年以後、ウィーバーはギターそのものをほとんど弾かなかくなったらしい。その理由はわからない。1943年に再婚した妻ドロシーは、「一度として夫が演奏するのを聴いたことはない」(前傾著P37)と言い張った、という。彼は、ルイヴィルのスモークタウンという所で、運転手兼執事として仕事を続け、その地域で彼は敬愛されていた、という。おそらく、音楽的名声よりも周囲の人々や自分の生活を大切にした人だったのではないだろうか。1960年4月4日、舌癌により亡くなっている。

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