文化逍遥。

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わたしのレコード棚―ブルース48、William Harris&Walter “Buddy Boy” Hawkins

2018年03月09日 | わたしのレコード棚
 今回取り上げるウィリアム・ハリス(William Harris)とウォルター・ホーキンス(Walter Hawkins)の二人は、共に詳しい事績や生没年は分かっていない。しかし、1920年代にミシシッピーの南部などでメディシンショーや黒人ミンストレルズショーなどで演奏したミュージシャンではないか、と云われている。ちなみに、メディシンショーとは、あえてたとえれば「ガマの油売り」に近いようなもので、人集めのためにミュージシャンなどの芸人を使い薬を販売したもの。中には、かなりいかがわしい薬もあったらしい。ミンストレルズは、本来は白人が顔を黒く塗って黒人に扮して歌ったり踊ったりしたショーだが、時に黒人も雇われることがあったという。
 録音を聴くと、ウィリアム・ハリスはリズムが安定していて、いかにもダンスのバックで演奏していたように感じられる。また、ウォルター・ホーキンスは叙情性が強く、語りかけるような歌い方でフォークソングに近い感じだ。二人ともギターの高いところにカポを付けていたようで、マンドリンの様な音色を出している。


DOCUMENTレーベルのCD5035。1927年から1929年にかけて、ウィリアム・ハリスの9曲とウォルター・ホーキンスの12曲を収録。二人の残した録音は、これで全てらしい。ただしCDの解説書によると、ウィリアム・ハリスに関しては、(レコード会社の記録上では)あと5曲の録音があるが未発見、とある。この手のCDは、コレクターが持っている78回転のSP盤から録音しているので、時にそのようなこともある。

 二人とも高度なテクニックを持っているわけではないが、しっかりしたリズムと良く通る声、さらに脚韻を踏んだ詩を歌いこなしている。ブルースギターというと、日本では後のロックミュージックやフィンガーピッキングに繋がるテクニックばかりが取り上げられて、ブルースマン達が全体に表現しようとしたところはあまり考慮されていないような気がする。テクニックはもちろん大切で、かく言う自分も伝統的ブルースギター奏法に基づいて詞を載せる様な事をしてきた。が、そうする中で、歌に込められた想いやトーンの深さなど、ブルースマンからすればそれこそが大切と思われる魂の部分が抜け落ちてしまうことがないか、十分に注意する必要がある。受け継ぐべきものを忘れて技術だけを取りだす、自戒を込め、そのようなことの無いようにしたいものだ。この二人の録音を聴いていて、そんなことを感じた。
 この稿を書くにあたり、ウィリアム・ハリスの「Kansas City Blues」(オリジナルはジム・ジャクソン)をコピーしてみた。が、ハリスのようにしっかりしたリズムを最後までキープすることは困難だった。優れたミュージシャンでも、演奏しているうちにわずかにリズムが流れて行ってしまうものだ。ハリスはタメの効いたリズムをキープできる稀有な存在、と言えるだろう。また、そこに、ダンス・ミュージックを支え続けた演奏家の底力を感じざるを得なかった。


HERWINというレーベルから出ていたLP214。ウィリアム・ハリスの1927年録音、8曲を収録。

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