文化逍遥。

良質な文化の紹介。

奥野修司著『魂でもいいから、そばにいて』(2017年新潮社刊)

2018年03月16日 | 本と雑誌
 東日本大震災から7年。この時期はテレビやラジオなどでも特集番組が組まれるが、今年は関連した本を図書館から借りてゆっくり読むことにした。読んだのは、ノンフィクション作家のルポとも言える著作で、副題には「3.11後の霊体験を聞く」とある。



 東北は、『遠野物語』の地であり、また、恐山のイタコに代表される「巫(シャーマン)」の伝統が残る所でもある。この本は、そんな東北の地(主に宮城・岩手)で被災し、「お知らせ」や「お迎え」という不思議な体験をした人達の話がまとめられている。人は極限状態の中で、合理的な説明が出来ない体験をすることも時にはあるだろう。しかし、それは一方でカルトなどを生じさせる危険性を含んでいる。そのことを踏まえた上で読みたい著作とも思う。また、著者によるとこの本は、宮城県で2千人以上を看取った岡部健医師の勧めで書かれたものというが、その岡部医師が興味深いことを語っているので引用しておく。「人間が持つ内的自然というか、集合的無意識の力を度外視してはいかんということだよ。それが人間の宗教性になり、文化文明を広げていったんじゃないかね」(P13)。おそらく、著者もこのような視点でインタビューをする気になったのではないかと推測している。取材は、震災の2年後から3年半程の期間をかけて行われたという。
 大切な人を亡くした方達の「想い」が伝わってきて泣ける話も多かったが、一方で他の被災者から心無い言動を受けた人も多数いたことも実感させられた。甚大な災害は、必ず襲ってくる。その時、生き残った者はどの様な心構えでそれに臨むべきなのか、考えてみる契機になる本である。

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