文化逍遥。

良質な文化の紹介。

1953年日本映画『ひろしま』

2019年08月20日 | 映画
 8/17(土)午前0時からETVで放映されたもの。わたしも、この作品を知らなかったが、先行して8/10に放送された「ETV特集」で取り上げられ、その存在を知った。その後、映像をデジタル化してノイズを除去した後、作品そのものを深夜に放送したもの。広島での被爆から戦後の朝鮮戦争による特需の頃までを、静かに描いている。

 監督は関川秀雄、監督助手に熊井啓など、脚本は八木保太郎で基にしたのは長田新著『原爆の子』。主な出演俳優は、岡田英次、山田五十鈴、月岡夢路、加藤嘉、などでその他の被爆者等に当時の広島市民85000人余り、となっている。企画・制作は「日本教職員組合」、すなわち「日教組」だった。ここが大きなポイントになるが、個々の組合員から募金を募り制作されたのがこの作品だったのだ。この作品が注目されることがなく、長く「不遇」とも云える運命をたどることになった大きな要因がここにあった。すなわち、日本が独立した昭和27(1952)年以降、レッドパージとも云える動きがあり、出演した一般の人達も「ETV特集」で語っていたところによると、周囲の反応が冷たく、暗に「止めた方がいい」と言われたりしたという。
 完成した後も、大手の配給会社は取り上げず、地方の独立系映画館がわずかに放映した後、国立フィルムセンターに眠っていたらしい。数奇な運命、というほかは無い。

 実際に作品を観てみると、組合活動への理解を求めるような場面すらなく、ましてや共産主義思想を称賛するような場面もない。当時の風潮とは言え、これだけの作品が埋もれていたことは、あまりに惜しいことだった、と言わざるを得ない。
 しかし、再びこのように注目されてきたことは「作品の質の高さ」ゆえにだろう。また、昭和28年に撮影されているので、原爆のシーンなどはセットだが、その他は当時の街並みの様子がそのまま写っている。その意味でも貴重と言える。この後、一部の映画館での上映も予定されているという。これを観たアメリカの映画監督オリバー・ストーンは、インタビューで「詩的要素をまで含んでいる」と語っている。国内のみならず広く世界で、多くの人に観てもらいたい作品。

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