文化逍遥。

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わたしのレコード棚ーブルース88『DOCUMENT-5575 Field Recordings - Vol.1』

2020年05月01日 | わたしのレコード棚
 田舎のブルースが好きな、わたしの様な者にとっては、大変ありがたいレーベルであるオーストリアのDOCUMENTが出してくれているフィールドレコーディングの中からさらに一枚。今回は、アメリカで戦前にフィールドレコーディングされたシリーズの1枚からCD5575『 Field Recordings - Vol.1』を取り上げる。1936年から1941年にかけて、ヴァージニア州の刑務所(State Penitentiary)や同じく州の農場(State Farm)、あるいは教会などで録音された34曲が編集されている。4/10のこのブログで紹介したCD5599同様、かなりマニアックな録音で、アメリカのフォークソングに興味の無い人には聞きづらいかもしれなが、やはり貴重な録音と感じる。



 特に、注目したいのはCDの最後に入っている1941年に"Big Boy"という名で録音された「Blues」とだけクレジットされた曲だ。おそらく、演奏者の名前も正確な曲名も分からず、偶然に録音された1曲なのだろう。しかし、これはステファン・グロスマンの教則LPに『Vestapol』として入っている曲であり、ロバート・ウィルキンス(Rev. Robert Wilkins)の名曲『The Prodigal Son』とも同じものだ。ギターはオープンDチューニングで、歌はミシシッピー・ジョン・ハートの『Nearer My God To Thee』に近い歌詞で歌われている。つまり、様々なブルースマン達が、後に自分なりにアレンジして録音したもののある中で、おそらく、この録音がオリジナルに近いのではないだろうか。無名ブルースマンによる、「ブルース」だが、実に素晴らしい演奏だ。後に、幾人かのフィンガー・ピッカーがこの演奏パターンを取り上げているが、ハッキリ言って比べ物にならないくらい深みのある演奏が聴ける。人から人へ耳だけを頼りに伝えられた時代の、長い時間を含有したような演奏がここにはある。

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