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わたしのレコード棚ーブルース90『Before The Blues(YAZOO2015)』

2020年06月15日 | わたしのレコード棚
 地元の千葉でブルースセッションに参加するようになって2年ほどだが、けっこう多くのプレーヤーと一緒に演奏させてもらっている。その中で感じることは、ほどんどの人が古いブルース、あるいは、それ以前の民俗音楽に近いフォーク・ブルースを聴いていない、ということだ。ロックから入り、シカゴなどのモダン・ブルースに興味を持ち演奏する人がほとんどだ。それが、悪いわけではない。しかし、そこで止まってしまうのは惜しいものがある。便利な道具がなかった時代に、様々な工夫をして優れた音楽を作っていった先人達の残してくれたものはそれなりの価値がある。現代のデジタル録音に比べれば雑音は多いし、音自体も明瞭さには欠ける。それでも、心を傾けて聴いていくうちに、限りなく豊かで迫力のある音楽を見つけることができるだろう。逆に言えば、聴こうとしない者には聞くことが出来ないのが歴史的録音だ、とも言える。

 そんなわけで今回は、我が家にあるブルースの歴史的録音を集めたオムニバスCDの中からヤズー(YAZOO)レーベルの2015『Before The Blues』を取り上げる。



 地域等にこだわらず、後のブルースなどに少なからず影響を与えた録音23曲を編集してある。録音年はクレディットされていないが、おそらく1920~30年代のもとと思われる。解説には、英文だがそれぞれのミュージシャンについて簡単に書かれており、参考になることも多い。ヤズー(YAZOO)レーベルは、主にカントリー・ブルースを中心に発売しているレーベルで、オムニバス・アルバムも多い。その中には、正直言って、どういう方針で編集しているのか理解に苦しむものもある。が、このCDに関しては全体に芯が通っているものを感じる。なお、ジャケットの写真は、1860年頃に写された「Unknown Black String Band」となっている。「名も知られぬ黒人のストリングバンド」というわけだが、1860年代と言えば、南北戦争の頃で、リンカーンが奴隷解放宣言を出した頃だ。その頃に、すでにスーツを着てネクタイを締めて演奏活動をしていた黒人のバンドが存在していたこと自体興味深いものがある。

 タイトルの『Before The Blues』を、『Roots Of American Folk Music』と言い換えても良いだろう。「根源」を探ることで、理解を深めることは大切なことだ。特に、ブルースを含めて、自ら演奏活動をする人たちには、聴いてほしい一枚。

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