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わたしのレコード棚ーブルース152 Albert Collins

2021年09月22日 | わたしのレコード棚
 1988年7月、東京の日比谷野外音楽堂。やっと梅雨が明けて、蒸し暑かった日と記憶している。「ジャパン・ブルース・カーニバル」の最後に出てきたのが、アルバート・コリンズと彼のバンドだった。コリンズが登場して、最初のフレーズを弾いただけで、聴衆は総立ち。異様な雰囲気に包まれたのを、よく覚えている。

 生まれは、1932年10月1日テキサス州レオナ(Leona)。亡くなったのは、1993年11月24日ネバダ州のラスベガスだった。ライトニン・ホプキンスが母方の親戚だったと言われ、資料によっては従兄弟としているものもある。育ったのはヒューストンで、最初にバンドを組んだのは1952年。20代前半にはセッションギタリストとしてレコーディング活動を始め、その後は様々な地方のレーベルにレコーディングしている。
 1966年にカンザスシティーに移動しているが、主な活動はヒューストンだった。1969年、ロサンゼルスのIMPERIAL(インペリアル)レーベルからコンタクトがあり、西海岸へ移動しアルバムを制作している。1972年にインペリアルを離れTUMBLEWEEDレーベルへ移るが、アルバムを1枚出しただけで、1977年にアリゲーターと契約するまではレコーディングの機会に恵まれなかった。アリゲーターでは、1987年までの10年間に多くのアルバムを制作し、大きな賞もとっている。

 この人は、テレキャスターを使い、オープンF マイナーでチューニングする。特異なチューニングと言われる。モダンブルースでオープンチューニングを使う人は、スライド奏法で弾くプレーヤーを除き、確かに珍しい。思いつくところでは、ロニー・ジョンソンが5弦と6弦を1音下げるドロップGというチューニングを使うが、ジョンソンはジャズ系のプレーヤーでコリンズとはスタイルがかなり異なっている。一方で古いカントリーブルースでは、スキップ・ジェイムスなどのベントニアスタイルで4弦と5弦を一音上げるオープンEマイナーチューニングを使う。さらにそれを全体に半音上げてチューニングすれば、オープンF マイナーになるわけだ。つまり、伝統的な変則的チューニングをさらに進化させた、と言えないこともない。テレキャスターは高音の抜けが良いエッジの効いた音が出せるが、このF マイナーチューニングにより、さらに「氷を割る(Ice Pickin')ような切れ味の鋭い」独特なサウンドが出る。リードを取る時には、ほぼ1弦から3弦のみを使っていたと言われている。サステインの効いた8ビート系のロックのノリに近いブルースは好き嫌いの分かれるところだが、ブルースロックに対する影響力は大きい。

 ギターを弾く人なら、このチューニングでキイを変えるときはどうするのか、という疑問を持つだろう。カポタストを使うのだ。例えば、E の曲では11フレットにカポを付けることになる。普通なら、この方法ではリードパターンが決まってしまい、つまりワンパターンに陥りやすいが、そうならないのがこの人のすごいところ。


 アリゲーターからの1枚目のアルバム『Ice Pickin'』ALCD4713。これはLPをそのままCD化したもので、8曲を収録。1977年頃の録音と思われる。

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