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わたしのレコード棚ーブルース100 Jazz Gillum

2020年08月24日 | わたしのレコード棚
 ジャズ・ジラム(William"Jazz"Gillum)は、わたしの最も好きなハーピスト(10穴ハーモニカプレイヤー)・ヴォーカリスト。生まれは、1904年9/11ミシシッピー州インディアノーラで、シカゴには1923年頃に出てきたという。そのシカゴでは、ウォシュボード・サムやビッグ・ビル・ブルーンジーらと共に活躍し、ブルーバードレーベルのレスター・メルローズに見出されて多くの録音を残している。技術的には後のシカゴ・ブルースのハーピストとはかなり異なり、シンプルだが一音一音を大切にする音使いは、郷愁を誘われる。ジャズ・ジラムの吹くハープの音を聴いていると、汽車に乗ってどこか遠くに連れて行ってくれるような気さえしてくるのだ。現在のハーピスト達は、曲のキイそのままではなく、4度か5度上のハープを使うことが多い。たとえばCのキーではFやGのハーモニカを使う。これは、ハーモニカを吸ったときに出す音の方がコントロールしやすく、ベントもしやすいためだ。が、ジラムは、曲のキーと同じハーモニカでストレートに演奏したと言われている。ジラムの吹くハープの音色には、その方が合っていたと思われる。
 その後、1942年には陸軍に入った。戦後は、再びブルーバードやヴィクターで録音するも、すでにモダンなシカゴブルースがもてはやされる時代になっており、脚光を浴びることはなかった。1966年3月29日、シカゴで銃撃にあい、命を落としている。


 ドキュメント・レーベルのCD5197。ジャケットには「1936-1949」となっているが、このCDにはヴォリューム1として、1936年4月から1938年12月までの録音23曲を収録。ギターは全曲でブルーンジーが、38年の録音ではジョージ・バーンズ(George Barnes)という人がエレキ・ギターで加わり見事なバッキングをしている。余談だが、ブルースのギターリストたちはエレキギターを使い始めるのが早く、しかもそれを使いこなしていたことに驚かされる。手元の資料ではリッケンバッカーがフライパンと呼ばれるエレキ・ギターを開発したのが30年代初頭で、ギブソンがES-150(後にチャーリー・クリスチャンモデルと呼ばれるもの)を商品化したのが‘36年となっている。当時の流通事情を考えれば、ほぼ発売と同時に使い始めたことになる。ブルーンジーも’40年頃にはエレキギターを使っていたと思われるし、たいしたもんだ。


 こちらは、上のCDより後の時期の録音を収めたLP、ウルフ・レーベルのWBJ002。’46~’47年では、ウィリー・レイシー(Willie Lacey)という人がエレキギターを担当している。詳しいことはわからないが、この人もうまい人で時代を先取りしたようなピッキングに驚かされる。

同、裏面。


 ジャケット裏の写真を大きくしたもの。右の写真、写っているのは左からジャズ・ジラム、ビッグ・ビル・ブルーンジー、レスター・メルローズとその下にいるのがウォシュボード・サム、ピアニストのルーズベルト・サイクス、セントルイス・ジミー。
 芸名に“ジャズ”と称しているように、リズムは重いシャッフルではなく、4ビートに近い。ウォシュボード・サムやビッグ・ビル・ブルーンジーの安定した4ビートリズムに乗って奏でられるヴォーカルとハープ。ブルース・セッションに参加しているハーピストの何人かに「ジャズ・ジラムって知ってる?」と聞いてみたことがあるが、知っている人はいなかった。実に、もったいないことだ。

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