伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

虹の鳥

2006-08-03 07:53:49 | 小説
 中学時代の暴力支配から抜けられず、薬と暴力で支配された少女を利用して美人局を続ける主人公を軸に、米兵による少女強姦事件に対する抗議行動をクロスさせ、従属を続けるあきらめと自立への行動を対比させつつ描いた小説です。
 目取真俊の新作ということで「風音」のイメージで読み始めたのですが、思惑違いでした。

 主人公は、「ほんの一瞬の差で何か狂い始める」(37頁)と、何度も、あり得た自分と今の自分を隔てるものがわずかな偶然と理解しようとします。しかし、同じ反目しあう両親の下で放任され、小学生の時に米兵に強姦されたトラウマを持つ姉が、まっすぐに生きている姿を対置することで、作者は、それを否定しています。
 このままではいけないと感じつつも、自ら暴力支配への屈従を選び続ける主人公に、米兵への抗議行動のデモ隊や演説に対してそんな生ぬるいことでは何も変わらないと言わせることで、抗議の意思を示すことさえできない主人公のより屈折した様子が浮かび上がります。薬で酩酊状態にされながら、自力で支配を脱した少女に、主人公は少女を連れて逃避行を試み自分が少女の保護者のようにふるまいますが、少女はそうは思っていないことがラストで示されます。
 自立への行動を起こさずに屈従を選び続ける者と反撃に立ち上がった者の差は、「ほんのわずかな差」ではなく決定的に大きいというのが作者のメッセージでしょうか。

 しかし、それにしてもエンディングはどこまでもやるせなく救いがたい。ハッピーエンドは無理としてももう少し救いのあるまたは美しい終わり方はできなかったでしょうか。全般に流れ続ける暴力と薬とセックス(と言うより強姦)の重苦しさとあわせて、気楽に楽しく読むのは無理です。覚悟して読むタイプの本ですね。


目取真俊 影書房 2006年6月23日発行
コメント
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