伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

「百匹目の猿現象」を起こそう!

2006-08-07 22:21:52 | 実用書・ビジネス書
 「百匹目の猿現象」というのは、かつて宮崎県幸島で餌付けされた猿がサツマイモを川の水で洗うようになり、それが伝播しグループの75%が餌を水で洗うようになると、遠く離れた高崎山等でも同じように餌を洗う猿が現れ始めたという現象なのだそうです。
 著者はそれを引いて「よい行い、よい思いは時間や空間を超えて、周囲に広く伝わり、多くの人の思考や行動も正しい方向に導く」「だから、私たち一人ひとりがみずから率先して、よい思い、正しい行いを実践していこう。そうして社会や世界を変える起点となろう。」(12頁)と提唱しています。
 抽象的にはわかるんですが、著者の言うことを拾っていくと・・・自由の最低限の条件は「しつけ」(44頁)、世の中に起こることはすべて必要・必然・ベスト(53頁)、起きたことはすべてよいことだ(56頁)、幸島でよくなった猿社会の特色は、ボス争いがなくなり本家(血統のもっともよい家系)の最年長のオス猿が自動的にボスになるようになった(87頁)、群れには厳格な順位制度があって、ボス猿を筆頭に、おとな猿の一匹一匹の順位がきちんと決められていて下位の者が上位の者より先に餌を食べるようなことは決してない(113頁)。結局、長幼の序、社会の秩序を守って分相応に生きなさいって言われてるみたいですね。

 終盤になると、人は生まれ変われる(人生をやり直すって意味じゃなくて輪廻です)とか知的計画(進化論否定論者の主張)とか出てきて・・・
 ビジネス書・人生論じゃなくて宗教書だったんですね。

 「百匹目の猿現象」と言いたいことの関係も今ひとつはっきりしない感じがしますし、言いたいこともこういうことはいけないと言ってみたら起きたことはすべてよいことだと言ってみたり、スッキリしません。
 幸島の猿も餌付けされなくなったら芋を水で洗うのやめたそうです(60~66頁)し、よいことなら当然に広まるっていうのはちょっと難しいでしょうね。


船井幸雄 漫画:赤池キョウコ
サンマーク出版 2006年5月15日発行
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サイボーグとして生きる

2006-08-07 09:01:44 | ノンフィクション
 聴覚を失い人工内耳の埋め込み手術を受けた著者の体験と考察をまとめた本です。
 人工内耳はサウンドプロセッサーがサンプリングしてデジタル信号化した音を聴神経に直接電気刺激として伝達する装置で、既に相当数の人が使用しているそうです。でも人間の聴神経はスピーカーとは違いますから、どういう周波数・強さの電気刺激を加えればどう聞こえるかは、人工内耳をつけた人での実験で確認していくことになります。そうしながらサンプリングした音を電気刺激に変換するソフトウェアをバージョンアップしていく作業が続けられます。
 人間の聴覚は複雑で、理論通りには音が聞こえなかったり、脳の方で柔軟に対応してうまく聞き取ったりもするようです。そのあたりの試行錯誤が圧巻です。
 でも、著者がサイエンスライターでもあることから、自分の聴覚がコンピュータに制御されること(それを著者は「サイボーグ」と繰り返し強調しています)や失聴者社会にとっての人工内耳の影響(手話コミュニティの脆弱化)などについての哲学的な考察がかなりの部分を占め、ちょっと退屈します。

 人工内耳手術は5万ドル(著者は条件のいい医療保険に入っているので自己負担は数千ドルとのことですが:206頁)もすること、医療扶助の対象になっているけれども手続が面倒で時間がかかり、診療報酬が低いので医療扶助で外科手術を引き受ける医師が少ないので低所得者が手術を受けるのは困難になっているそうです(206頁)。
 ついでに調べてみたら、日本でも1994年から保険適用となり装用者が数千人になっているそうです。それなら、「サイボーグ」なんて刺激的な言葉で目を引こうとしないで、体験を中心に機器の説明や開発研究を加えた着実な語りにしてほしかったですね。


原題:Rebuilt
マイケル・コロスト 訳:椿正晴
ソフトバンククリエイティブ
2006年7月13日発行
(原書の発行時期の記載なし!少なくとも2004年10月よりは後でしょうけど)

読売新聞は8月28日に書評掲載
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする