故郷で12歳の時に娼婦の母とその客だった父を殺害したと思いこみ(実際には父を刺したが未遂)外国に逃亡し寄宿学校に収容され16歳で時計工場の労働者となり10年たった「私」が、異国での疎外感と幼少時の同級生で「腹違いの兄妹」の少女リーヌの想い出への思慕に悩みつつ、自殺やリーヌの夫の殺害を試みて果たせず、結局は失望感・虚脱感に満ちた日常に回帰する小説。
冒頭のトラに強いられた演奏、鳥の死、ラストの鳥の死と演奏家=船人が観念的・象徴的で、小難しい印象を持ちます。おそらくは鳥が自由と自由への意思、トラは支配者(どこの?)として、旅する演奏家は何でしょう。故国の同胞でしょうか。
私の日常の中に、裁判での通訳を依頼されたことを通じて故国からの亡命者たちとのつきあいが流れ込み、冒頭では架空の存在と述べていたリーヌが夫と乳児を連れて工場に現れ、故国と過去とのからみ、リーヌとの恋愛を軸に話が進みます。
解説で、亡命、工場労働等が作者の実体験と重なることが説明されていますが、それがなくても、作家になろうとして原稿を書いては燃やす「私」という設定は、作者が私に自己を投影していることを示唆します。
観念的・象徴的な部分がはさまれているところは理解しきれず、異国での疎外感と過去への憧憬、破局的行動の誘惑と未遂、失望感・虚脱感に満ちた日常への回帰というイメージ・雰囲気はつかめるけど、それは楽しいわけでもなく明確なメッセージを感じさせない、ちょっと読んで疲れる小説だなという読後感でした。
原題:HEIR
アゴタ・クリストフ 訳:堀茂樹
ハヤカワepi文庫 2006年5月15日発行 (原書は1995年)
冒頭のトラに強いられた演奏、鳥の死、ラストの鳥の死と演奏家=船人が観念的・象徴的で、小難しい印象を持ちます。おそらくは鳥が自由と自由への意思、トラは支配者(どこの?)として、旅する演奏家は何でしょう。故国の同胞でしょうか。
私の日常の中に、裁判での通訳を依頼されたことを通じて故国からの亡命者たちとのつきあいが流れ込み、冒頭では架空の存在と述べていたリーヌが夫と乳児を連れて工場に現れ、故国と過去とのからみ、リーヌとの恋愛を軸に話が進みます。
解説で、亡命、工場労働等が作者の実体験と重なることが説明されていますが、それがなくても、作家になろうとして原稿を書いては燃やす「私」という設定は、作者が私に自己を投影していることを示唆します。
観念的・象徴的な部分がはさまれているところは理解しきれず、異国での疎外感と過去への憧憬、破局的行動の誘惑と未遂、失望感・虚脱感に満ちた日常への回帰というイメージ・雰囲気はつかめるけど、それは楽しいわけでもなく明確なメッセージを感じさせない、ちょっと読んで疲れる小説だなという読後感でした。
原題:HEIR
アゴタ・クリストフ 訳:堀茂樹
ハヤカワepi文庫 2006年5月15日発行 (原書は1995年)