伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

セキュリティはなぜ破られるのか

2006-09-07 20:30:07 | 自然科学・工学系
 セキュリティに関する技術の本ではなく、セキュリティの基本的な概念と考え方を説明した本。
 書いてあることは大部分当たり前のことですが、守るべきもの(資産)とリスク対応コストのバランス、セキュリティシステムのメリット・デメリットを考えるなど、広い視野でバランスを考えることの重要性を指摘しているのは大切だと思いました。また、セキュリティの最弱のパーツは人間(内部の人間による侵害、操作する人間のミス)であること、しかし内部の人間を全く信用しないと組織自体が成り立たないしミスをしない人間はいないこと、だから完全なセキュリティはないし究極のセキュリティが構築されたら人間は幸せに暮らせないこと等の指摘は考えさせられます。
 そういう意味で、セキュリティのノウハウを学ぶのではなく、セキュリティの哲学を考える本といえるでしょう。
 各章に「この章のまとめ」の他に「この章で間違えそうなこと」が整理されているのは、この本のポリシーにもあっていることですが、親切です。


岡嶋裕史 講談社ブルーバックス 2006年7月20日発行
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バグダッド・バーニング2

2006-09-05 22:30:35 | エッセイ
 また1つ、人気ブログの書籍化。でもアメリカ占領軍とイラク傀儡政権、イラク治安部隊には気に入らないでしょうけど。
 バグダッド在住のイラク人女性が「イラク戦争」開始直後からバグダッドの様子などを書きつづったブログの2004年6月から2006年6月までの分を本にしたのがこれ(それ以前は「バグダッド・バーニング-イラク女性の占領下日記」として出版済)。

 爆撃から爆破、治安部隊などの襲撃の恐怖が日常化していく様子が、読んでいて悲しい。その種の暴力の他に、戦後も続く(戦後さらにひどくなっている)停電や断水、石油の上に浮いているような国でのガソリンや灯油不足という生活の中からの不満・怒りが生々しい。
 そして、イラン型のイスラム国家化の進行とヴェールやヒジャーブ(スカーフ)に押し込められていく女性たちの様子、さらには次第に強まる内戦への危惧感が描かれています。アメリカ軍の侵略の前、中東ではありがちな独裁国家ではあったけど中央には珍しい非宗教政府だったイラクが、イラン型のイスラム原理主義国家に。これは、本来アメリカにとっても最も避けたい道だったはずですが。

 ブログのオリジナルは http://www.riverbendblog.blogspot.com/
 アラビア語かと思ったら英語なんですね。
 日本語訳サイトは http://www.geocities.jp/riverbendblog/

 本の最後の方、なんとなく悲観的というかあきらめが強まっていく感じで気になりますが、続けてほしいブログですね(まあ、存在の必要がなくなることの方が望ましいんでしょうけど)。


リバーベンド 訳:リバーベンドブログ翻訳チーム
アートン 2006年8月15日発行
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「イリアム」を読む日々

2006-09-03 10:43:24 | Weblog
 8月の半ばからちょろちょろ読み始めて読み終わりが9月2日。エンタメ系でこんなにかかったのはかなり久しぶりです。

 何と言っても、この本、重い。中身が、ではありません(中身も、プルーストの引用とか、終盤でのキャリバンの言葉の日本語訳での文語体とかは、重苦しいですが)。物理的に、重い、分厚い。2段組で本文だけで747頁。厚さ4.4cm。私のルーティーンの読書スタイルの、持ち歩いて移動時間に読書、には不適。
 で、移動時間には軽い本を読みながら、並行してうちでは「イリアム」の日々でした。

 最初の方は、イリアム平原のトロイア攻囲戦の物語、未来の地球人類の物語、木星の半機械生物の物語の3つの物語が、別々に順番に進むのが読みづらくて、遅々として進みませんでした。数頁~十数頁で章が変わってぶつ切りに別の物語に交代するのですが、とりあえず一回り3章読んどこうとか、そんな感じで。
 8月28日まででようやく200頁くらいまできて話が見えてきて、最後までがんばるぞと思い、ちょうどというか、そこで読もうと思ってた8月29日の新潟出張で、初めてカバンに入れて外に持ち出しました。しかし、新潟出張の往復時間をフルに使って、ようやく250頁。3分の1。普通の本なら2冊は軽い、あわよくば3冊ってところなのに・・・。
 まだ4割も残ってるって途方に暮れましたが、まあ、ここまで来たら話も見えてきておもしろくなってきたし、勢いもあるし。で、夜寝る前に読み進みましたが、終盤での障害は、キャリバンとワームホール。キャリバンの言葉の日本語訳が文語体で読みづらい、というか読む気が失せる。キャリバンのキャラが、どこか指輪物語のゴクリをイメージさせてこれまでの進行にそぐわない。ワームホールがつながってという設定が、なんか安直。まあ、それまでの量子テレポーテーションや人間ファックスも同じようなものですが、巨大な通路まであけられると、ちょっと・・・。で、最後にスピードダウンしたものの、なんとか9月2日に読み切りはしました。
 でも、そこまでして読んで待っていたものが、あれですから(「イリアム」の記事をお読みください)。


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イリアム

2006-09-02 23:53:50 | 物語・ファンタジー・SF
 これはひどい。駄作という意味ではありません。しかし・・・
 話は、未来の改造された火星にあるオリュンポス山、イリアム平原で繰り広げられるギリシャ勢のトロイア攻囲戦、火星探検に向かう木星の半生物機械(モラヴェック)、地球に残された人類を中心にそれぞれ進んで行き、壮大なスケールの世界が展開されます。
 それで、日本語版で2段組の本文747頁、400字詰め原稿用紙換算2100枚(訳者あとがき)を読破して待ち受けているのは、大半の謎解きはお預け。これは実質的には上巻で、下巻の「オリュンポス」(原書2005年6月発売)に請うご期待という話。
 オリュンポス・イリアム平原とモラヴェックは合流するけど、地球人サイドの話はまだつながらず、別進行のまま。
 イリアム平原は一体どこにあるか(最初は火星だと思ってましたが、終わり間際で地球のように匂わせていて、でもたぶん地球ではないはず)、オリュンポスの神々の正体、地球サイドの話ではプロスペローの正体と「リング」での不可解な行動の理由などの基本的な謎が解かれないまま放置されています。
 それはないでしょう。
 まじめなSFファンならまず間違いなく欲求不満になりますから、まだ読んでいない人は今読まずに「オリュンポス」の日本語版が出てから一気読みすることをお薦めします。

 お話の中では、ホメロスの「イリアス」、シェークスピア、プルースト(失われた時を求めて)が度々登場します。特に最初の方で話になれるまで、イリアスやギリシャ神話に全然興味がないと、ちょっと読み進むのが苦痛でしょう。知らなくても一応読めますが、読みながら、知ってたらよりおもしろいんだろうなと感じます。英語圏では普通の教養なんでしょうか。
 でも、量子テレポーテーション(QT)とか人間をファックスで瞬間移動させる(送信先に情報だけが送信されて別の原子で瞬時に同じ人間が作成されるようです)なんていうことが頻繁に出てきて、それを量子力学や「量子の絡み合い」(アインシュタインが量子力学に対する批判的命題として指摘した概念)で説明したり、結構読者にハイレベルの要求をしている感じがします。量子論の世界がマクロレベルで実現したりワームホールで時空がつながったりするあたりは説明がなくて、SFらしくなりますが。

 話はイリアム平原の学師ホッケンベリーとモラヴェックのマーンムートと地球のディーマンを中心に進みますが、終盤までディーマンのわがままぶりにはどうも感情移入しにくいです。終盤でディーマンが突然勇敢になるのは、きっかけの説明もなくてあれっと思いますが、まあ終盤ではそれぞれに入りやすくなってはいます。
 それだけに話が融合せずに謎解きもなく、続編待ちにされるのはやっぱり、そりゃないよと感じます。


原題:ILIUM
ダン・シモンズ 訳:酒井昭伸
早川書房 2006年7月31日発行 (原書は2003年)
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災害のあと始末

2006-09-01 21:15:01 | 実用書・ビジネス書
 サブタイトル「被災後3日目からの対処マニュアル」の通り、災害で生き残った後の生活再建に向けてのガイドブックです。
 幅広い分野について、コンパクトにまとめてあります。それぞれの項目を詳しく知るのには別の資料を探す必要がありますが、ああこんなことが問題になるんだとか、おおかたこういう方向に動けばいいんだというようなことを見るのにはよさそうです。支援金とか保険とか、どうなるんだろうとは思っても、あまり知りませんもんね。
 そういう観点で勉強になりました。
 防災の日の読書としては最適かも。


林春男監修 エクスナレッジ 2006年7月10日発行
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