
人の獣性は、平時には知性のコントロール下にあります。
だが、それは容易に上昇もしやすいものです。
上昇して、知性の上位に立ってしまうこともあります。
いわゆる「喧嘩早い」人というのは、この獣性上昇が比較的容易に進んでしまう人でしょう。
また、いわゆる暴力団員になる人も、比較的獣性が上昇しやすい気質の人が多いでしょう。
彼らが一般人を脅す時には、この獣性上昇の容易さを示唆して恐怖を与えるのでしょう。
だが、程度の差こそあれ一般人の心にもこの性質は存在しています。


<戦時体制下での獣性上昇>
国が戦時体制に入ると、その中にいる国民には獣性上昇の力が加えられます。
たとえば、人民は、昔で言う赤紙一枚で徴兵されます。
彼らは戦場に兵士として送られる予定で、兵舎で訓練されます。
第二次大戦中の日本の兵営では、古年兵が夜ごとに初年兵を並ばせてビンタをしました。
これには、古年兵が加虐趣味を満たす動機もあります。
新人時代に先輩にやられたことを、新たな初年兵にやって気を晴らす動機もあるでしょう。
だがそれは、初年兵の心にいち早く獣性が浮上する慣性を形成する効果も発揮しました。
戦場の前線現場では、敵を殺さなければ殺されます。
その際、知性が「相手も父母がいるだろう」、とか、「妻子がいるだろう」、とか思ったら殺せません。
獣性が上位にきていないと殺せないのです。
知性はそれを悲しむでしょうが、前線に出る兵隊にはそれをさせねばなりません。
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知性の納得抜きで夜ごと殴られると、初年兵の獣性も上昇が容易になっていきます。
獣性が刺激を受けたら速やかに知性の上に浮上しやすくなるのです。
こうすると初年兵は、戦場で比較的知性との葛藤に苦しまずに敵を殺せるようになります。
ヒョウがシマウマをくい殺すような、殺戮行為が自然に出来るようになります。

<極刑にしてください!>
日中戦争で日本は敗戦国となりました。
中国大陸においても終戦後、多くの日本兵がは戦犯として裁かれました。
かつて、中年の日本兵が中国での法廷で裁かれた場面の記録フィルムが、テレビ放映されたことがあります。
中国人の老人が証人として登場し、当該日本兵の残虐行為を涙ながらに証言しました。
突然家に入ってきて、無抵抗な息子夫婦と孫を家畜を殺すように斬り殺した、と。
被告の日本兵士は、法廷でその行為を悔い悲しみました。
自分がなぜあのときそんなことを平気で出来たかがわからないままに、「私を極刑にしてください!」と絶叫していました。
戦の間には彼の意識は獣性主導になっていたので、自然に殺せたのです。
そして終戦で捕虜となり、もう殺し合わなくていい状況におかれました。
すると彼の獣性は下位に沈み、意識が知性上位にもどりました。
獣性上位にならねば、国民としての役目を果たせないところに戦争の呪いがあります。
(続きます)
