前回、レーガン=ゴルバチョフという奇跡のコンビが、社会主義圏を早春の雪が解けるかのように、溶解させてしまった様を述べた。
今回は、その後のマルクス理論への、人々の気分について述べる。
「マルクス思想を正確に知る必要」の議論は、今回でおしまいである。
<知られざる「雪解け変革」の故に>
前回、前々回に話したような事柄は、特定の人々にしか知り得ないものである。
ジャーナリストにも、一般の経済学者すらにも、この情報は得られない。
その状態で、ソ連に率いられていた社会主義圏は、崩れていった。
その崩壊は自然現象のごとくであった。
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普通、社会体制の変革は、暴力革命となる。
資本主義体制から共産主義・社会主義体制への変革も、労働者を率いた指導者によって、暴力的に成し遂げられた。
それからすると、共産主義体制から資本主義体制への変革も、暴力の伴うものだと予想される。
だが、それは、雪が解けて川の水になって流れるかのように、変化した。
人々の受ける衝撃は少なかった。
しかもその変革の実情は、前述のように、特殊の人々にしか知り得なかった。
これらが重なって、人々は、マルクス理論の「暗」の部分に目覚めることのないままで、新時代を迎えることになった。
かくして、「マルクス理論は絶対正しい」との印象を抱いたままで、多くの人々は今日まで来ることになった。
<「アメ帝!」の時代>
戦後日本ではマルクス理論全盛期は、昭和40年代前半まで続いた。
筆者は、その昭和30年代後半に、経済学徒だった。
(いわゆる近代経済学ベースのゼミに属していた)
当時、法政大の今井ゼミなどは、マルクスゼミを代表する一つだった。
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ゼミ生は、こう確信していた。
~資本主義は必ず帝国主義に発展して、後進諸国を植民地化しようとしていく。
先進資本主義国は、植民地奪取争いを必然的にする。
だから、人類は常に世界戦争の危機に置かれる。
この動向の戦後のチャンピオンは、資本主義国の親玉、アメリカである。
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こういう認識から、「アメリカ帝国主義」という用語も造られた。
略して「アメ帝」と隠語化した。
<「国独資!」もあるよ>
その種の専門用語には「国独資」というのもあった。
曰く・・・。
~独占資本家は、労働者による革命を恐れて、国家権力を抱き込む。
こうして資本制社会の寿命を延ばそうとあがく。
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彼等は、資本主義のこの段階を「国家独占資本主義」と命名していた。
略して国独資である。
当時、全国ゼミナール大会などで、「アメ帝!」、「国独資!」なる用語が、一般語のごとくに飛び交った。
年配の諸氏には、懐かしい思い出かもしれないが。
<米国認識の目を覆う>
こうした風潮が、昭和30~40年代の社会気分を形成した。
社会主義圏崩壊がなし崩し的であったがために、その気分が残されたままで、現在まで来ている。
だから、いまだに、多くの人々が「アメリカ=悪の根源」的な気分から抜け切れていない。
それが若年層をも「教育」してしまう。
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「根源」となれば、やること全てが、悪意によるものと解釈される。
これが、米国に関する正しい認識の、茫漠とした目隠しになっているのである。
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〔アメリカが全ていいとは言わない)
(だけど、この認知状況は、やばいヨ・・・)