月と太陽は対照的だ。明と暗、光と影。月は常に陰を担っている。そしてこの映画はまさにその月から放たれている鈍い光を描いているのである。
アフリカ系黒人の存在。アメリカでも住居を隅に追われ、黒人たち居住地とでもいうべきスラムのような街に、母親からも疎まれ居場所のないシャロンがいる。彼はまだ幼児であったが、差別された黒人の中でも、オカマといわれ、さらに黒人たちからいじめを受けている。
生きる上で過酷な生存競争に、子供でありながらすでに行き場をなくし、日々を佇んでいるシャロン。この映画はそんなマイナーな人間の、それでも一条の光を求めてどうにか日常を生きる人間の話であります。
当然、この映画の視点は低く見据えられている。弱者たちが弱者を叩きのめして弱者たちの上に乗っかかり生きざるを得ないヒエラルキー社会の実情を強く感じる映画でもあります。
でも、黒人たちが大勢出演する映画でこんなにも優しい映画を僕は今まで見たことがあったか。そう、この映画は背景は実に悲惨であるが、実に静かな映画なのである。
特に前半の屋外での撮影映像の秀逸さは息をのむほどだ。音響も心を刺すほど鋭く、すばらしい。最近のアメリカ映画では実に宝石のような作品であり、稀有だと思う。この余韻はしばらくは途切れることがないであろう。
やはり一番感動的なのは、時が流れても人を思う気持が変わらず、それを頼りに静かに人生を歩んで来た一人の男の心情である。これがこの映画の真髄を占めている。
確かにこれほど切なく、ピュアな作品も珍しい。アカデミー賞で争った「ラ・ラ・ランド」とテーマはそれほど相違がないのだが、設定は太陽と月ぐらいの差があり対照的である。いい映画である。秀作!
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