能楽を、多少の興味はあったけれど、劇とのコラボで多少なりとも初めて見る。そりゃあ、想像していたより全然素晴らしい。
楽としての笛の音の美しさ。幽玄。そしてその能楽の中心となす舞とともに凛とした衣装のすばらしさ。豪華である。今までなぜ見なかったのか。
まずは、女編。岡部作である。夢見る女である。本当に夢を見る。いや、否が応でも夢を見る妻の話である。小池さんの例の唄から始まり、能の舞台に小池さんがいることの不思議さを感じる。小池さんは能舞台でもいつもの芸である。でも合っている。
夫が黄泉の国から戻ったとはいえ、夫に先立たれた女の話である。けれど、岡部作は突き抜けるように明るい。湿っぽさもない。恨みもない。スカっとしているのだ。この明るさは何なんだろう。
“アカルサハ、ホロビノ姿デアロウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ” 太宰の「右大臣実朝」を思い浮かべる。
さまよう男編。とはいえ、こちらの方も女が主役。岡部が演じる。いつもそれほど彼女の演技を長く見ることはないので(空晴では彼女の出番が意外と少ないのではあるまいか)、まるで彼女の一人芝居のようでもある。
30分。うまい。セリフの抑揚が素晴らしい。人の心を引き付ける。彼女は演技者としては一人、二人芝居がむしろ真価を発揮する役者なのではなかろうか。唸りました。こちらは男に対する恨み、つらみがすこぶる出現し、女の性(さが)を感じさせる。陰影がクリアに出てる。
能とのコラボって、思っていたより面白い。日本人というものの本質を考えさせられる何かがある。素晴らしい谷町の夜であった。
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