考えたらそんなに見ているわけではない【ソクーロフ】。でも『太陽』の神とも思える俯瞰視、『レーニンの肖像』の雄大なゆったり映像、どちらも映画史に残る傑作であった。そして今回はあの歴史上でも名作と名高い「ファウスト博士」。これは見ざるを得ないと、気持も高ぶる。
映像は確かカラーだと思ったが見終わった後はモノクロの印象が残る。色彩でも薄い色調を何色にも展開していたように思う。そして画面は基本的には今や懐かしいスタンダード画面。それに斜めに曲がった異様な映像が所々出てくる(これは意味合いも考えたが不明であった)。また冒頭の、天井からまさに神が下りて来るような宗教画のような俯瞰シーンから、何と人間の解剖シーンが始まる。
何か分からないもやもやの映像があり(なんで?)醜い内臓が飛び出してくる。人間の肉体の中身はこんな醜悪なものが入っているのだよ、とでも言いたげだ。そして言葉を辿ればこの肉体(解剖)から人間の心(精神)を探しているのだ、と、、。心はどこにあるのだ、、。肉体から精神を探しているの?
これはユーモアたっぷりのコメディではあるまいか、と僕はにやり。悪魔と契約し、うまく嵌められ殺人まで犯してしまうファウスト。しかし、その悔悟もうやむやに少女の美しさ(この女優ははっとする美しさ。まるでフェルメールに出てくるような清純さを残している)にうつつを抜かし、気付いたら自分の殺した男の妹であることも厭わず、なんとその葬式まで繰り出し少女の横に陣取り何と肉体的接触を試みるのだ。この背徳。俗物。哲学的史観を超えてとってもエロチックに人間の欲望を吐露し続ける。
悪魔との契約とは言いながら結局は自分の脳裏にある悪魔との葛藤に過ぎないことは明らかで、映像では実際に金貸しの形を借りて具現化しているが、まあ一人の人間の分身と見れば理解できないことはない。
美術は当時の様相を的確に再現し、さすがソクーロフの世界を造形している。下俗的で面白い世話物にしているので思ったより高踏的な映画ではない。だが、冒頭の2作に比すると感動的には後塵を拝する。
でもこの映像は後々残るね、、。
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