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ムサン日記~白い犬 (2010/韓国)(パク・ジョンボム) 80点

2012-06-13 16:01:16 | 映画遍歴

命を賭けてやっとのこと脱北してきた青年。しかし、やって来た新天地は最下層でもがく日常の繰り返しで、希望など何も見えない。一体全体何のために逃げて来たのか、、。生きることは何と過酷か!

ダサい風貌の青年である。しかも非合法のポスター貼りをやらせてもすぐ剥がれ、使いものにならない。同じ脱北者のアパートに居候しているが衣類まで借りている状態である。一方、脱北者にはまともな仕事も紹介してもらえない政治情勢である。彼らは南では厄介者扱いなのである。このままでは最下層にくすぶり、犯罪者になるのが落ちではないかと危惧される絶望的な状況である。

そんな消えてしまった希望のもと、明日のない非合法ポスター貼り(これさえクビになってしまうが、、)の日常が淡々と描写される。同じ朝鮮人でも脱北者は歓迎される身ではなさそうだ。

そんな青年、彼の生きる糧はキリスト教の信仰と身を寄せる子犬だけであった。教会での聖歌隊である女性に一目ぼれした青年はストーカーごとき後をつける。彼女がカラオケ店を任されていることを知り何とかそこで働くことになる。しかし、ぶきっちょな青年はそこでもうまく立ち回れずクビになってしまう。

 本当に希望のない話である。でも何故かこの話は今の日本に通じるものがあるのに僕らは気づく。仕事を見つけられない若者。カネもなく、明日のことさえ見い出せない日常、そしてその繰り返し。

この閉塞感は実際、脱北者と本当はそれほど変わらないのではないか、と思われる。脱北者と違い、ある程度それらしき生活水準を経験していたことが逆に大きな足枷になっている。

実は彼は大きな罪を2度も犯してしまうのだが、この映画を見ている観客がそれを責めることは出来ないだろう。それは生きる上での正当防衛とでも言うべき行為であるからだ。だが、鮮烈なラストは彼のさらなる困難を暗示して終わる。彼もそれを自覚する秀逸なラストシーンである。

ちょっと感じは違うが、僕が昔若い時に繰り返し見た『真夜中のカーボーイ』に印象が似ている。あこがれた南朝鮮やフロリダはどこにもなかった。あるのはまさに非情な日常のみ。そんな過酷な青春、、。

ナイキの青いダウンジャケットからはじきこぼれる羽毛。青春の喪失。それをガムテープで修理し、子犬の暖かな床にしつらえる優しさ。子犬に青年の思いが伝わるシーンの美しさ。一方、カネを盗んで身づくろいをした颯爽とした青年が一瞬まばゆい。しかしその輝きが後でやけに哀しく空しく残る映画でもあった。


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