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カティンの森 (2007/ポーランド)(アンジェイ・ワイダ) 80点

2010-01-29 10:21:41 | 映画遍歴
ファーストシーン、鉄橋の上でソ連およびドイツから逃げてきた人たちが滞留してしまう混乱。この国はどこが我が国なのだ、という悲痛な思いがこの1シーンに象徴される。この鉄橋そのものがポーランドなのだ。

ポーランドという国は東はソ連、西はドイツに接しており、国土は南側を除いて大平原である。つまり大国の通り道として位置している。そのため、歴史的にもポーランドは国土を何度も分割されてきた。第一次大戦後にやっと独立したが、20年後、独・ソのポーランド侵攻により新たなポーランドの悲劇は始まったわけだ。それがこの映画の背景だ。

将校の夫に会いに行くためにソ連侵攻地に行く妻。そこではポーランドの国旗(赤と白)を裂いて赤だけの国旗を掲げる赤軍がいる。そこはソ連領内なのだ。だから妻は家族が住むドイツ侵攻地に自由に帰れなくなってしまう。淡々とした描写に歴史の事実をこれでもか、と吐露する【ワイダ】の執念。

夫たち将校は捕虜収容所に送られる。何とか帰り着いた家でも大学教授の義父はナチスに投獄され殺戮される。要するに優秀な頭脳と力を持ったポーランド人男性はその当時ほとんど幽閉されるか、殺戮されていたことになる。勿論一般人もアイシュビッツ収容所等でユダヤ系ポーランド人が大量虐殺されている。

【ワイダ】が特に言いたかったことはポーランドが二次大戦後ソ連衛星国になってしまったことから、カティン虐殺事件がタブー化してしまい、ドイツのしたこととして事実を捻じ曲げられていたことだろう。普通のポーランド人もそれに参画する。

学生が履歴書に父親がカティンで死亡と記するだけで修正を迫る同胞ポーランド人。モニュメントにカティンと記入するだけで墓を壊してしまう教会側。独立国とは言いながらソ連の植民地に近かったことを僕たちは知る。

そしてカティンの森での虐殺。まるで家畜の牛、豚のように機械的に銃弾で殺戮される優秀な将校たち。そして暗黒の画面がしばらく続く。観客はまんじりともせずこの黒い画面の意味を考える。将校たちの一瞬に消えた生の黒い空間とも思えるが、現代への警鐘とも取れる。人間は、人間の歴史は、こんなことをして、殺戮の歴史を通して現代に到っている。我々は今その意味をもっと深く知るべきだろう、、。

初期の作品群、人間の自由というテーマからはかなり違ったものになっているが、【ワイダ】はこの映画だけは作らないといけなかったという信念がものすごく伝わります。映画を通してまだまだ僕たちは知ることが多いです。

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