確かに死んだ後の夫の3年間の旅先を夫婦で辿る旅というのはかなり異色であった。しかも死んだ夫は生きている自分と全く変わらず息もし、睡眠もとり、食物も食べる。何らこちら側の人間と変わらない。これが一番衝撃であった、、。
黒沢はこの手の話がそもそもお得意である。いわゆる生者と死者との交流といったテーマは彼のファンであればもう「あ、また、あれか」と言わんばかりの類である。でも今回は徹底的にホラー色を避け、映像、音楽も抑制している。すなわち生者と死者との境をなくしている。
生者と死者はそれほど差があるわけでもないだろうに、と言わんばかりである。本当は死者は怖くない。しかしやはり生者と同等に生活していたらどうなんだろうと一瞬考える。それでもこの映画の妻は夫とともにいたいのである。夫がそのうちいなくなってしまうのが怖いのである。
死者は全員そこらにいるかと思えば、この映画を見る限りそれには理由が必要であるらしい。3つの挿話の死者たちの理由はある程度理解できるが、夫が3年ぶりに帰ってきた理由はラストで明かされるが、正直一番つまらない。ここが僕が黒沢作品だとはいえ、しっくり行かない点であります。
3つの挿話の途中に夫が同僚と不倫をしていることが分かる。妻は女と対峙する。せいぜい4,5分だが、全体の中でこのシーンが一番緊張している。夫がいて普通の生活に戻る女と夫を亡くした妻との、弦を最大限まで引っ張ったような空気感がすごい。やはり生者たちの方エネルギーが満ち溢れているということか、、。女優蒼井優と深津絵里との対決でもある。
まあ、でも死者とセックスまでしちゃう(夢のシーンだったようにも思えたが)交流は素敵ですね。宇宙の始まりとその後の膨張、という話がありました。人間の体を形成している元素の源であるビッグバンを考えると、死者は宇宙空間の塵となり宇宙に浮遊し、これからも生者と交流してゆくのでしょうか、、。
黒沢作品としてはやはり過去の作品の、死者のイメージの方が僕は面白いと思いました。やはりホラーにしなければ黒沢でないという感じがしましたが、、。
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