ナチズムへの切り口を変えた復讐映画です。俳優陣に懐かしい名優を集め、そりゃあ見てるだけ嬉しいやら、懐かしいやら、俄然楽しめます。特にクリストファー・プラマーはまさに独演で、彼の演技人生全開であります。
演出が各パートで丁寧です。最初のクリーブランド行き列車での描写も見事。こういう風に何でもない光景をじっくり見せる演出は最近少ないので逆に印象的だ。エゴヤンの本気度が見える。
それぞれ訪ね歩くパートは、でも、やはりエゴヤン、きびしさというか、鋭くしない。不思議と和やかなんだ。換言すれば、芸術映画風には撮らない。アイシュビッツものだけど、娯楽映画に徹している。本流はサスペンス風である。
途中で何故彼がそういうことをやっているのか、と疑問に思い始めてきて、うすらうすらこの物語の隠れた本質部分に観客は気づきはじめる。
「水晶の夜」事件についてもゼヴは意外と詳しすぎるし、名ピアニストであり、メンデルスゾーンがお得意なのだが(メンデルスゾーンはユダヤ人)、最後に正真正銘のユダヤ人に身を変えた悪徳ルディ・コランダーの家で弾いたのは、かのワーグナーだった。ここで観客は彼の正体に気づくことになる。
終戦後70年を過ぎ、過去を捨てて生き延びた者にも安らかな死はない。そのナチズムの悲劇は終わることはなく、現代、未来へと引き継がれることになるのか。考えさせられるラストであります。
しかし、エゴヤン、ルディ・コランダー家での思いがけない結末で映像を終わらせればいいものを、最後に高齢者施設に戻りマーティン・ランドーに語らせる。これは蛇足というものだろう。あの暗黒の映像で終わらせるべきだったと思う。惜しい。
けれど、ミステリーとしても秀逸な映画であった。何より名優クリストファー・プラマーを十分味わうことができた。素晴らしい。
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