完全なる報復 (2009/米)(Ｆ・ゲイリー・グレイ) 70点

最近、「灰色の虹（貫井徳郎）」という本を読んだ。無実の罪を着せられた青年が刑事、弁護士、検事、裁判官と次々連続殺人を犯す話だ。この映画の主人公は家族を殺した犯人を司法取引でうやむやにした司法制度を告発する。

そしてその手段としてこの日本の書物と同様に関係した犯人たち、弁護士、裁判官あっちを遠隔操作のごとく殺戮してゆく。というのは、この主人公は刑務所の独房にいて誰か共謀者者がいないとこの連続殺人は不可能だからだ。

前半はこの主人公の無念の思いが観客の乗り移って行く構成で、殺人劇画意外とスカッとするものになって行くから人間の心は怖い。点数アップのために司法取引を選んだ検事なんかには目もくれないような展開にしてある。脚本の妙である。

しかし、目的達成のために検事の娘に殺人ＤＶＤを送りつけたり、（後で分かったのだが）独房に入りたいがために同室の囚人を殺戮するに当たり、この話はすでに破綻してしまっていると思った。

そして、遠隔操作のからくりが漫画でも使わないでたらめであるのを見るに及び、画面から引いてしまっている自分を感ずるのであった。いかにも残念なラストで、この映画の失敗は脚本の段階で分かっていたはずではなかったか、と言いたいところ。

だが、前半の主人公と観客との強い思いの合致感は他の映画の追随を許さず、それだけで娯楽作品としては減点できない所以だ。いかにも勿体ない作品でさえある。それにしても、あんな行動で司法制度を告発したことになるのだろうか、、。