冒頭の、暗い重そうな病院の門を叩く女。なかなか開けてはくれない。強打してゆくうちにようやく門は開けられる。しかしズシーンという音がして門はすぐ閉じられる、、。このシーンがこの映画のすべてを物語る。
1944年度ぐらいのブラジルの精神病棟である。恐らく日本でもついこの間までそういうイメージだった病棟である。患者は病棟に入所すると、一生出られないなんて普通の人は思っていた、そんな時代である。
彼らは患者でありながら、頭をおかしくしたもはや人間ではないのであり、だからして隔離することが最善の策(治療)であるかのように。でもその治療は患者に対して行っているのではなく、患者以外の通常の人間社会に対して行われていた隔離政策であった。
女性医師ニーゼは病院内で差別を受けながらも、患者に対して肉体と同等に精神にも治療のできる見込みがあることを実証してゆく。
それほど精神病に対しての治療方法は未知数の世界だったということなんですね。精神病クリニックが街のあらゆるところに溢れている現代とは全く違い、かなり昔のように思われるが、ちょっと前まで日本でもこのような精神病棟だったが普通だったんだ。そんな感じがする。そういう偏見の介在を思い出させる映画である。
ドキュメンタリーータッチなんですね。だから、劇映画風の展開は採らない。それでも観客を飽きさせないでぐいぐいと引っ張ってゆく映像。その演出力は大したものだ。また、映像の色彩等、カメラワークも冴えまくっている。決して明るくない話なのに、映像が秀逸で退屈することはないのだ。
秀作だとは認めます。でも、だからって、パーソナル的に何かが僕に入って来ることのない映画でした。それは恐らく事実に基づく脚本だから、あまり映画的、換言すれば芸術的に飛翔する術がなかったのではないか。そんな気もするのだ。
あんな、ロボトミー手術をして考案した医師がノーベル賞を受賞していた時代なんだ。ホント、歴史は怖い。いや、人間のしてきたことを辿るのは本当に怖い。そんなことを思い起こさせる作品です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます