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エンディングノート (2011/日)(砂田麻美) 80点

2011-10-20 15:21:43 | 映画遍歴

この映画、予告編で見た時、死期を知った猛烈サラリーマンが自分をしっかり残すために誰かに委託して製作した映画だと思った。冒頭、その私の声が女性であることに違和感を覚えるが、その声が彼の次女であり、また監督でもあることを徐々に知ることになる。

そうこの映画は死期を悟った男の自主的な映画ではなく、ずっと前から日常的に父親を撮っていた娘の映像集であったのである。毎日普段からカメラを向けられていると、男はカメラ自体を意識しなくなったのだろう。そこには男の生の顔がある。生活がある。人生がある。そういう意味では不思議な映画である。撮られていることを意識しない人間の映像がそこに溢れているからだ。

男は定期健診で胃がんを診断される。余命半年。彼は段取りをつけるのが生涯の仕事だったようで、自分の葬式までを段どり良く手配しようとする。例えば葬式を経済的、見栄えの理由でキリスト教に入信する。特に宗教に拘ってはいない合理的な考えの持ち主だ。死ぬまでに10カ条のことを成し遂げようとする。そして映画ではすべて見事それを成し遂げる。観客である我々は最初は驚くが、そのうち彼の行動に慣れてくる。そして同調もする。

妻との二人だけのひととき。愛してるよと初めて告げる。これほど美しい映画が今まであったろうか、、。緩やかに流れる涙をそっとぬぐう。

段取り上手の男が仕掛けた最後の儀式も終わり、この映画も終わりを告げる。でも、これほどの段取り男も意外や、死期が迫るに及び世の中でよく見る家族との別れに終始することに僕はちょっと驚く。ごく普通の人なんだ。でも、この世で一番幸せな人でもある。ちょっと早い人生だったけれど、それでも十分彼の悔いない人生を生き切った。やはり幸せだったんだ、と思う。

普段ドキュメンタリーは見ない僕ですが、この映画を食い入るように見ました。劇映画以上に強いものを感じ取ったのは僕だけではないでしょう。一人の人間の生きざまを十分写し取ったのは他でもないやはり映像だったのだ。映画の力を映画館を出て強く感じる僕。じわじわ感動の嵐が訪れる。


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