ウクライナ侵攻の背景:あるいは短絡的な勧善懲悪からの脱却

2022-03-07 17:10:00 | 感想など




何回かウクライナ侵攻についての記事を書いてきたが、その一応の締めとしてもう1つインタビュー動画を紹介したい。


当たり前だと思うので端折っていたが、今回の件を踏まえウクライナ(あるいはNATO加盟国)があらゆる面において「絶対善」で、ロシアがあらゆる面で「絶対悪」というのは完全に間違っている(というか、それを示すためにアメリカのテキサス併合の例[アメリカ≠絶対善]に触れたし、また日本の満州事変についても言及したのだが。なお、前に書いた事例で言えば、世界史でルターを宗教改革を始めた人物と習うことで、「あらゆる面で開明的な人物だった→ドイツ農民戦争を一貫して指示」と妄想するのにも似ている)。


当然そこには、侵攻が始まる背景があるし、またロシアを非難している他国も、単に人道的・国際法的な面のみならず、経済的利益も考慮しているのは言うまでもない(これはアメリカ南北戦争時の奴隷解放宣言などを想起すればよい)。


とはいうものの、今回のロシアの軍事行動は「相手からの先制攻撃」という、よくある理由付け(口実作り)すらかなぐり捨てたものであり、その点で完全な悪手だと言わざるをえない(これはアメリカや日本で言えば、メイン号事件やトンキン湾事件、あるいは柳条湖事件を想起すれば十分だろう)。


これはロシアが憲法を改正して盛り込んだ領土割譲の禁止を思い起こせばよい。つまり、「ある一部の領土返還や独立を認めたら他でも同じことが要求されるから、一切を認めない」という方針はロシアや中国で前々から言われていたことだが、それを明文化した形である。


その発想法から行けば、「このウクライナ侵攻を認めるならば、自分たちが同じことをされてもしょうがないと認めることなる」から多くの国が断固反対するし、侵攻が不成功に終わるよう協力せざるをえない、という動きが巻き起こるとどうして想定できなかったのだろうか?そう考えると、河東がインタビューで言ったように、「追い詰められての暴走」と表現する以外にないし、その正当化の片棒を担ぐのは御免被る、と少なくとも私は考える次第である(被害者にも一定の問題があったんじゃないか?という見方は凶悪な事件の際にもしばしば見られ、いわゆる「セカンドレイプ」的な様相を呈することがあるが、冒頭で述べた勧善懲悪的な視点から距離を置くことと、被害者側をこの状況で論難することを短絡させるべきでない、とも述べておこう)。


さて、最後に今回のウクライナ侵攻に対するロシア人の反応について触れておこう。一体どの程度の割合がこの軍事行動を支持しているのかは不明である。しかし、これまでのプーチン支持と現在のロシア国内状況を見る限りは、(消極的か積極的かはともかく)一定程度の支持はあるものと予測される。あるいはプルシェンコといった著名人が声を上げているとの記事を読んだ人もいるだろう(ただし、この発言内容の翻訳を見る限り、何に反発して何に賛成しているのかは慎重に見極める必要がありそうだ。というのも、たとえばロシア人個人に対して短絡的にヘイトをぶつけるのは適切な行動とは言えないと私も考えるからだ。日本に絡めて言えば、排日移民法などを想起したい)。


これらの態度には違和感を覚えるかもしれないが、実は「身近」な事例のアナロジーからこれは理解できる(賛同ではない)かもしれない。それはすなわち、戦前の日本である。


治安維持法や情報統制による抑圧的体制の中、震災恐慌、金融恐慌、昭和恐慌、農村恐慌といった苦難を経験した人々は、憲政の常道、すなわち政党政治に厭気がさし、やがては軍部や軍事的拡大という鬱屈した感情のはけ口に期待を寄せるようになった。この結果が満州事変への賛同や五・一五事件への同情的反応、あるいは太平洋戦争への肯定的な反応を醸成していった。


これを思うとき、1990年代のカオスを経験したがゆえにそれを収束させたプーチンに期待し、たとえ自分たちの自由の一部を差し出してもあの苦難よりはマシだ、というメンタリティを作り出したとしても不思議ではない。またそれゆえに、経済制裁もあって経済的に停滞する中、被害者意識を内部で膨らませて「ここまで追い詰められたから止むに止まれずやったんだ」としてプーチン(ロシア政府)の行動を正当化する考えを生み出していると考えると、かつての日本を理解する上でも、なかなかに有効ではないかと思うのである。

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