勧善懲悪の嫌悪と三国志

2007-03-13 11:52:57 | 歴史系
以前書いた「病的な完璧主義:世界への敵意と滅びの希求」を見て、中には勧善懲悪を想起した人がいるかもしれない。


しかし俺は、むしろ勧善懲悪が嫌いだった。いや、憎んでいたとさえ言えるかもしれない。なぜか?勧善懲悪といえば、誰にでもわかりやすい論理によって正義と悪に別れているのだけれど、そもそもそれを提示する世界の側がおかしかいと思っていたからだ(※)。ゆえに、その論理が至極当然のように提示されればされるほど、俺の疑いは深まるばかりであったのである(当時はそれが洗脳であるという可能性までは考えなかったけど)。


勧善懲悪を提示する社会そのものが胡散臭い。だから勧善懲悪も胡散臭い。もし仮に勧善懲悪の基準を受け入れるとしよう。だがそうすると、社会(世界)こそ悪ではないのか?どちらにしろ、勧善懲悪という見方は破綻していると言わざるをえない…このようにして、小学校の頃には勧善懲悪を嫌うようになっていた。


とまあそんなわけで、以前書いたLIVE・A・LIVEなどがお気に入りのゲームとなったわけであるが、今述べた考え方が視野を大きく狭めたことも事実である。その一例として、三国志が挙げられる。三国志との出会いは五歳以前に見たアニメの三国志(中村雅俊の「夢一途」がエンディングテーマ)であり、比較的早い方だったかもしれない。しかしその後、どこからか「劉備が善、曹操が悪」というのが三国志の基本構図であることを知り、以後三国志に近づかなくなったのを覚えている(記憶が正しければ、アニメ三国志の最後に曹操と劉備の死亡した年齢だか年代が出てきた時、母親が「曹操は悪者だから生命が~」とか何とか言っていたのだが、このあたりからすでに始まっていた可能性もある)。三国志嫌いは大学の三年頃まで続き、終わったのは「三国無双2」がきっかけだった。勧善懲悪を嫌っていたために三国志を避けていたのが、よりによって演義色の強い(笑)三国無双で三国志へ興味を持つというのも皮肉な話だが、まあそこから横山三国志や小説(『三国志演義』や吉川英治のもの)ではなく講談社学術文庫の『曹操』へと向かい、次にちくまの訳書、最後は原典史料(つっても中華書局の評点本だが)という流れには、「小説や漫画を読んでもどうせ勧善懲悪だ」という思いが生きていたのは確かである(その頃になればさすがに三国志関連の著作がどうなっているのか多少の知識はあった)。歴史書『三国志』を読んだ時は、そのおもしろさに今まで読まずにきたことを後悔したものである。


結論。食わず嫌いはやめましょう、
て何かテーマとズレてねーか?まあいいや…ちなみに、『三国志』(あるいは歴史書)に善悪の構図が無いというのは大きな間違いだし、演義は演義で物語としてのおもしろさはあるだろう(※2)。あるいは研究という観点から見れば、そこに表れる善悪の基準・評価を分析し、当時の王権の観念(正当史観)やら社会的な善悪の観念を明らかにすることも可能である。勧善懲悪の話を研究と同レベルで論じているわけではないので念のため。



「なぜ世界の方がおかしいと思うのか」と聞かれたら、私はこう答えただろう。
もし世界が正しいのであれば、どうして世界は様々な不正、そして殺人を始めとする悲劇に満ち溢れているのか
と。この意見は、「正しいこと=いかなる問題も存在しない状態」という思い込みが前提となっている。それが意識できていなかったことも、俺がそれを「病的な完璧主義」と呼ぶ所以である。


※2
善悪とは違うが、張遼が800騎で10万の呉軍を動揺に陥れた挙句包囲を突破したというエピソードなど、数字的にオイオイと思う話もある。ただ、これをもって歴史史料にもありえないことが書かれている…とか言う人には、歴史文献を知らないのだなあという印象を受けるけど。
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4 コメント

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アニメ三国志の (ひきた)
2007-03-14 15:42:15
オープニングは、時の河だ。
たぶん。
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なるほど (ギーガ)
2007-03-14 22:57:08
情報サンクス
返信する
親魏倭王 (バイシ)
2007-03-23 19:58:04
いや、原書をすんなり読まれただけでも凄いですよ。
身近にそちらから移ってきた方がおられるのですが、その方も、読んでる量は凄いです。そちらの学風なんでしょうか。

あと張遼のことは八百騎というところに注目すべきなのかもしれません。それだけ騎兵の歩兵に対する優位があったということでしょう。

三国志を東アジア全体の中で捉えた、大変面白い本として「親魏倭王」(大庭脩著)という本があります。すごい傑作だと思うので、もしお読みでなかったら手に取ってみてください。(リンクはっておきました。)
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なるほど (ギーガ)
2007-04-13 01:47:21
「南船北馬」という言葉を思い出しました。

『親魏倭王』についてはいつか読みたいと思います。
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