新反動主義・加速主義の影響力とその限界:プアホワイトとの同床異夢

2020-06-12 12:11:04 | 抽象的話題

昨日は『ニック・ランドと新反動主義』という著作を紹介しつつ、新反動主義や加速主義についてコメントした。とはいえ、「暗黒啓蒙(Dark Enlighment!)」といった具合で、ネーミングセンス的にもちょっと中二病が入ってる(その理由の一つは、「反近代」の中に「反理性」という要素が含まれていて、直感を重視するからだろうw)ような思想がなぜ注目されているのだろうか?

 

それを端的にまとめると、

1.

今日では、近代市民社会の根幹となっていた資本主義・国民国家・民主主義というトリアーデが曲がり角を迎えている。典型例はブレグジットで、グローバル経済=資本主義の成長が国民国家の枠組みを崩しつつある(少なくとも多くの人にそう思われている)中で、それを称揚する人々と反発する人々で分断が生じ、「誰が決定に参加する資格があるのか?」、「我々の範囲はどこまでか?」といったテーマが問い直されており、民主主義が成立するための合意形成にも深刻な亀裂が生じつつある

2.

そこらのgeekが思い付きで言っているわけではなく、ピーター=ティールというペイパルの共同創業者でありフェイスブック(つまりGAFAの一角)にも大きな影響力を持つ人物がその思想や活動の中心におり、熱烈なトランプ支持者・反ポリコレ勢力としてプアホワイトと結びつき、トランプ現象の一因となった=アメリカの動静に影響を与えている(多少単純化して言うなら、安倍政権の性質を分析する際に、日本会議の成り立ちとその性質を分析することが有益であるのと同じだ)

3.

AIの発達と社会変化の片鱗が見え始めている今日、その主張が必ずしも荒唐無稽とは言い難くなってきている

 

の3つに集約されるだろう。

 

そもそも近代市民社会の継続が危ぶまれ、AIの発達が喧伝される昨今、「反近代」という旗印の元、反ポリコレや反普遍主義、人間の限界と機械化への期待などを訴える新反動主義に説得力を感じる人間が増え始めていることは事実だ(たとえそれが、思想を正しく理解しているのではなく、現状への不満に突き動かされてのものであったとしても、だ)。また、北朝鮮やイランの動静、米中貿易戦争やWHOとの関係性を取り上げるまでもなく、アメリカ大統領やそれを支持する集団がどのような存在であるかは、アメリカはもちろん世界情勢にも大きな影響を与える。その意味でも、新反動主義や加速主義に賛同するか否かには関係なく、思想の背景やその支持者どのようなものであるかを知るのは有益であろう(これは昨日の記事も書いたように、陰謀論や偽史の分析と似ている)。

 

 

さて、ここからは自分の興味に引き付けての話。
私は「人間に対する期待値はどんどん低下していき、一方でAI技術は発達していくため、需要供給曲線のような形で、たとえAIが人間の模倣には程遠い存在に過ぎなくても、いずれは高度なbotを対人関係より実りあるものと認識するような人間は増えていき、もって人間はAIの自発的『奴隷』となる」という趣旨のことを繰り返し書いてきた。

 

こう表現すると、「全てがそのような方向へ向かう」と言っているように受け取られるかもしれないが、そうではない。正しくは、相変わらず人間(=コントロール不可能な他者)との関係性を重視する者たちは残るだろうが、それはあくまでone of themとなり、その意味でもますます社会の分断は進み、やがては国家(正確には今の国民国家の形態)の解体まで行く地域もあるだろう、ということだ。

 

我々はすでにソ連解体やユーゴスラビア解体などを見てきたわけで、近代国家の枠組みが固定したものでも何でもないことは周知の通りだが、現時点でも国民国家の枠組みへの挑戦としてカタルーニャ独立やスコットランド独立といった運動が起きている(さて、沖縄などはどうなるだろうか??)。加えて、ブレグジットの投票においては、都市部・上流層(=グローバル経済で恩恵を受ける人々)を中心とした賛成派とそれに属さない反対派、という対立が浮き彫りになった。

 

このような分裂・解体の要素に、新反動主義(のような思想)に賛同する者と反対する者(サイバーリバタリアンVSリベラル・コミュニタリアン)、AIとの関係性をすんなりと受け入れる者と反発する者という対立が加わり、ますます世界は混迷の度を深めていくだろう。

 

こういった予測を踏まえると、私はいかにも新反動主義や加速主義に同意しそうに見えるかもしれない(なんせ「人類の存続に論理的必然性はない」とか言いきってもいるしねw)。しかし、これらの思想には様々な点で異論がある(そもそもアメーバ的なこれらの思想にそもそも全面的賛成がありえるのか、と言う話もあるが)。例えば短期的な視点で言うと、アメリカのプアホワイトとの結びつきによるトランプ現象とその限界である。

 

副題にも書いたことだが、新反動主義を主に称揚したサイバーリバタリアンたちは、その名の通り自由至上主義であるがゆえに自由放任主義でもあり、ポリコレや社会的再配分について反対の立場を取る(正確には、個人でやるのは勝手だが、システムとしてそれが事前に埋め込まれ強制されていることに反発する、というのが正しいか)。このポリコレ的部分への反発が、マイノリティ保護の否定という関連でプアホワイト(特に男性)、すなわちマジョリティとか言われているけど俺たちめっちゃ厳しい状況に置かれてるぜよ!という人々の不満と共鳴するがゆえに、この全く性質の違う二つの集団が同じくトランプを支持するという事態が起こっているわけだ。

 

じゃあそのどこに「限界」があるかと言うと、サイバーリバタリアンたちが加速主義とともに推し進めるAI化を連想すれば思い半ばに過ぎるだろう。というのも、AI技術の発達により仕事が減るとはもうずっと前から言われていることだが、そこで真っ先に減る仕事は単純作業で、プアホワイトが就いている仕事の多くはそういった性質のものだからだ。

 

なるほど今でこそ、アメリカの外から来たヒスパニックやら中東系の人々やらが自分たちの仕事を奪っているがゆえに苦しい状況に置かれているのだから、メキシコに壁を作り、アファーマティブアクションとかはやめろという要求をしている(だからこそ、そもそも移民だった白人がネイティブアメリカンを迫害し、殺し、追放して作った国なのに、ヒスパニックなどを移民だからという理由で迫害・追放するのはおかしいだろって反論が出てくるわけだが)。

 

しかし、もし仮にヒスパニックたちをアメリカから追放でもしたとして(まあそれはさすがに無理だと思うが)、AIが労働力として代替されていけば、すぐにでもサイバーリバタリアンとプアホワイトの利害は相反する。というのも、前者はAI化を推し進めるのを是とし、市場価値がない人間がそこからパージされることを自由放任主義的に正しいことだとする一方、後者はポリコレや移民を否定したのに、結局AIに仕事を奪われ、職がない(≒未来がない)不安・生活の向上が見られない不満を持ち続けるからだ(仮に雇用のためシステム的にbullshit jobを残し続ければ、国際競争力が落ちて経済が衰退し、どのみち生活は厳しい状態になる)。

 

『ニック・ランドと新反動主義』でも強調されていることだが、ここにおいて今のサイバーリバタリアンとプアホワイトの「共闘」は、所詮一時の同床異夢に過ぎないことが明らかにされるわけだ。とするなら、有り得る未来はGAFA的存在の成長による経済の独占と富の集中を進める(≒加速主義)、そこまではいい。

 

しかし次に来るのは、それらが大量に生み出されたアンダークラスの不満によってオキュパイ運動のようなものが起こり、自企業の存率が脅かされるよりはBIなどに貢献した方がコストが低いと判断し、不満を持つ彼・彼女らを飼いならす(ほとんど繭のないマトリックスの世界ですな)・・・といった未来が予測される方向性ではないかと私は考えている(だからVRの話とか人の「属性」を認知科学的に分析して嗜好すらコントロール下に置く、みたいな話を昔から繰り返ししているわけだ。グレッグ=イーガン攻殻機動隊沙耶の唄euphoriaなどを高く評価している理由の一つもここにある。ちなみにこういった企業や資本家側、統治権力の歩み寄りによって大衆のガス抜きをするという例は次回触れたいと思う)。

 

すると、サイバーリバタリアンの自由至上主義・自由放任主義とは違う未来を思い描いており、プアホワイトの「マイノリティ保護やポリコレを止めさせれば社会は何とかなって俺たちの生活も良くなるはずだ」などという発想にいたっては、もはや幼児的思い込みだとすら認識している、ということになるわけである。

 

さて、ここまで書いてかなりの分量になったので、次回こそは毒書会で扱う予定のシュンペーター『資本主義・社会主義・民主主義』に触れつつ、今後の社会について考えてみたいと思う。


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