「涼宮ハルヒの消失」より:突っ込みという共犯関係

2010-12-11 18:11:04 | レビュー系

前回の「涼宮ハルヒの世界」では、「涼宮ハルヒ」シリーズに私が不快感を覚える理由について考えてみた。明確な結論を述べていなかったのでここに記しておくと、ハルヒごとき存在が鍵を握る世界をわざわざ存続させようと奔走する必然性が見いだせない、ということであった。しかし登場人物たちは、たとえばハルヒの力を端的な事実として認めた上で何とかカタストロフを回避しよう(=「日常性」の範囲に事態を収斂させよう)としているのであって、その振舞いが不自然であるとは言えないだろう。とするならば、それに理由付けを要求する自分にこそ、「デタラメな世界を認められない」という傾向が見いだせるのではないか。

 

まあそんなところである。これについては「涼宮ハルヒ」という作品の中途半端な性格(前掲の記事を参照)もあるし、また「覚書:偶然性、再帰的思考、快―不快」などとの関係も説明する必要があるのだが、「神話は啓蒙に、啓蒙は神話に」といった話をするのもまだるっこしいので、今回は「涼宮ハルヒの消失」(以下「消失」)に話の的をしぼり、そこに私が何を見出したのかを述べていきたい。

 

「消失」がシリーズ中でも極めて重要な位置にいる点は、おそらく異論ないだろう。最初主人公は、涼宮ハルヒという神的な力を持つ女子生徒が無意識に引き起こす事件(あるいは世界)に突然巻き込まれる。そして文句を言ったり、時には死にそうになったりしながら、それを乗り切っていく。主人公の突っ込みは、散りばめられた「萌え」要素を確信犯的なものとして浮かび上がらせるという効果もあるが、荒唐無稽な日常に巻き込まれた驚きや嘆きを表現するものとして、自然に機能している。ところが「消失」において、主人公は荒唐無稽な元の世界に戻るか、それともある人物が作り出した世界で(私たちが思うような)日常に留まる範囲の生活を生きるか、という選択の権利を与えられる。つまり所与の世界(設定)を受動的に生きる状況から、能動的に選び直す(再帰的選択)状況への変化であり、ここの描き方一つで、主人公の世界に対するスタンス(が与える印象)は大きく変わったと言っていいだろう(特に「涼宮ハルヒ」シリーズは主人公のモノローグによって進行するので)。

 

このように「消失」は、繰り返し言うと極めて重要な作品であったはずなのだが、結論から言えば、主人公が元の世界を選ぶ説明が少なく、説得的ではないと私は感じたのだった。念のため付け加えておくと、私は作りだされた日常的な世界を選ぶべきだと言っているのではない。また物語的にも、そちらの世界を選んだ場合は完結してしまうという事情は理解できる。しかし、作り出された世界を選ぶにせよ、ハルヒが神的存在である世界を選ぶにせよ、そこにきちんとした説明がなければ理解も納得もしようがない・・・と小難しい話になりそうなところで視点を変えれば、そこにおける説明のなさは、先に述べた再帰的選択よりはむしろ、「何だかんだ言っても元の世界がいいよね」という(読者との)共犯関係の確認・強化の儀式を思わせるのだ。

 

そのように見ると、主人公の振舞は今までとは違ったものとして立ち表れるだろう。普段突っ込みを入れながら、特に理由もなくその世界を選び直すのは、結局その世界が好きである証左だ。ゆえに彼の振舞は、突っ込みという行為が、まさに「ボケ」というものが突っ込みと連動して成立するがごとく、批判よりはむしろ癒着・共犯関係を形成するものであることの表れなのである。このことは、突っ込みやネタにするという行為が、表面的には問題点の指摘という意味で批判のように見えながら、実際にはずるずるべったりの甘えに基づいた一種の癒着にすぎない、といった話に繋げることができるだろう(まあ鵜呑みは論外だし、突っ込みについても全てそうだというわけではないが)。

 

このようにして、荒唐無稽な世界を異化するはずであった主人公の突っ込み(スタンス)は単なる共犯関係へと堕した。これ以降は、たとえ彼が何を言おうと、「でも結局それが好きなんでしょ?」という予定調和の範囲に収まるものにすぎない。にもかかわらず、今までと同じように振舞い続ける主人公の姿や言動には、ポーズであることがすでに露呈している以上、もはや腐臭すら漂う(「DEATH NOTE~乾いた死~」)。そしてその大元となった「消失」での選択を理解も納得もしていない私は、「お前もそう思うよな?」とばかりに共犯関係の承認を暗に求める「消失」以降の主人公の言動に、強い不快感を覚えるようになったのである。それでもしばらく我慢して「涼宮ハルヒの憤慨」までは読んだが全くと言っていいほど変化がなく、なるほど小説を読み続けること自体が主人公との共犯関係の承認なのだなと思い、買うのをやめて全巻売り払った次第。

 

「涼宮ハルヒ」シリーズに対する不快感とその帰結は、以上のようなものである。


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