奥春野の山奥にある梅沢さんの遺骨に会いに行く。神道式の簡素な祭壇はいかにも梅沢さんにふさわしいものだった。在来茶にこだわり、無農薬を貫いてきただけにその新茶はファンも少なくなかった。もちろん、竹細工も丈夫で良心的だと評判だった。山並みに囲まれた農的暮らしは梅沢さんの心を形成してきたことを思わせる。
その茶園もいよいよ終焉となる。以前から体を悪くしていた奥様は今のところしゃきっと居住いを正しているのが伝わってくる。さいわい、すぐ隣に住む人が一人ぼっちになった奥様を何かとフォローしてくれているのが心温まる。
急峻な茶畑を一本足で縦横に作業していた梅沢さんの姿はもうない。毎年収穫をやめようと迷っていただけに、今年の一番茶が収穫できただけでも良かったのかもしれない。それは梅沢さんの真摯な生き方に共感した竹細工の弟子や周りの人の助力が大きい。
以前、共同で運転していた山の茶工場も、梅沢さんの死で事実上閉鎖となる。簡素な茶工場の中は茶葉づくりの機能を充分果たしているが、端正にぎっしりつまった製茶機械の再開はなくなってしまった。集落には後継者も若手もとっくにいない。じわじわと過疎の波は地方を凌駕し、過密な都会人の心を過疎にしていく。
この日本の現実を加担してきた「善良な市民」(忌野清志郎)の在り方が問われている。そんなことが豊かな山並みのここでもまた痛感する。令和新選組の山本太郎の痛憤と哀切がひしひしと迫ってくる。そんな想いが心の中でぶつかり合いながら、遺骨に別れを告げ、急峻な山道を後にしたのだった。