ガサガサと障子を歩き回っていたのは、「アシダカグモ」(アシダカグモ科)だった。障子の一区画ほどの大きさにいつもドキッとさせられる。日本の徘徊性クモの中では第2位の大きさだ。
拡大するとまるでカニのような形をしている。個体により頭胸部や腹部に明確な斑紋があるものもいるが、これはやや不明瞭だ。徘徊パトロールのおかげか、隙間だらけの民家のわりにはゴキブリが少ない。
初夏の常連の訪問者は、「スジベニコケガ」(ヒトリガ科)だ。背中の上部にはもう一つの顔があるのをいつも楽しみにしている。表情が個体により微妙に違う。まるで、魔女か魔法使いか王女様か、華麗で愉快な蛾ではないか。
大きさがセセリチョウより小さいので、その顔の紋を見るのが難しい。幼虫は苔を食べるので、「コケガ」という。梅や桜の皮など一年中食料があるので生き残り戦略が優れている。灰褐色の地味な蛾が圧倒的に多いなかで、オレンジのデザインが強烈に目立つベストドレッサーでもある。
子どもの頃、この飛び跳ねる様子を見たくて何度も遊んだ記憶がある「ヒゲコメツキ」(コメツキムシ科)も侵入してきた。いつもは髭のないメスが多かったが今回は立派な髭をしたオスだった。どうやら、メスのフェロモンの匂いを感知しやすいよう努力した結果らしい。昆虫も人間もオスの生き抜く環境の厳しさは変わらない。
名前の由来は、水車を利用して米つきをやっている上下機動が似ているからだという。また、跳びはねる理由は、野鳥を脅かして自らを防御することからのようだ。なるほど。それぞれの生き残り戦略はじつによく練られたものであることを示唆した訪問者たちでもあった。