このところやけに夜の訪問者が頻繁だ。スピード出し過ぎで飛んできた虫を逮捕する。すぐに留置場に入れたが黙秘で抵抗するので、素性がわからない。しばらくすると、折り込んで隠していたカマの腕を伸ばしてきた。それで蟷螂であることがわかった。しかし、その敏捷さはいままでのカマキリ概念を打ち砕くものだった。色は濃褐色でスマートな体だった。
体が50mmほどの小ささだったのでコカマキリだと思っていた。しかし、コカマキリは腕の所に白黒の紋があるはずなのに、この住宅侵入の容疑者にはそれが全くない。どうやら「ヒメカマキリ」ではないかと当局は推定した。図鑑の多くはお腹の太いほうが掲載されていたが、どうも痩せたオスのようだ。カマキリがこんなにも俊敏であるのかと、従来のカマキリの緩慢な動きを覆すほどの速さだった。
いっぽう、灯火にやってきたのは、「クビワウスグロホソバ」(ヒトリガ科)だった。こちらは対照的な薄墨色の衣を着た婦人・僧侶のような沈着な蛾だった。顔の後のオレンジのマフラーを見ると、ホタルガの仲間とみた。
しかしそれは、蛍に擬態した生き残り戦略があるようで、ヒトリガ科だった。蛍は有毒なので野鳥は食べないからだ。オレンジのマフラーの後は青紫色で、メタリックに光るのも魅力的だ。幼虫が地衣類を食べるので、コケガ亜科に属している。
両者とも他意がないとみて当局は優しく下界へ釈放した。