当初本書の刊行は1990年末だったが、延びに延びて今年になって上梓され、直後に著者の山根貞夫が癌で亡くなったということはそういうことだったのだと思う。
本書はフィルムコレクターに関する実話で、それ以外にもロシアの国立映画保存所ゴスフィルモフォンドの訪問記などバラエティーに富んでいるのだが、何と言っても生駒山麓の伝説のコレクターである阿部善重氏の話は秀逸で1990年の最初の出会いから2005年2月に阿部氏が亡くなってからその後、彼が所有していたフィルムの行方までのことが記されている。
ところが不思議なことに阿部氏が所有していたと言っていたフィルムのほとんどが見つかっていないのである。終章で著者が2021年10月に阿部家のあった場所を訪れると、跡形もなく雑草が生い茂っていたらしい。自称「昭和の化け物屋敷」はまるで本物の化け物屋敷だったかのように消え去ったのである。(「生駒山麓を8年振りに訪れる」と書かれているが、18年振りの誤植だと思う。)
著者の「神戸発掘映画祭 2021」の際の感想を引用してみる。
「『切られ興三』で喉の渇いた主人公が清水を飲む場面のように、映画のある部分、ある断片が、やはり一個の生き物としての輝きを放つことが十分にありうる。描写の優れた断片の力とでもいえようか。そんなことを神戸であらためて思い知らされた。」(p.286)
本書は書籍版『ニュー・シネマ・パラダイス』(ジュゼッペ・トルナトーレ監督 1988年)ではないだろうか。しかしこのような著書を物にする映画評論家は絶滅寸前であろう。
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/kyodo_nor/entertainment/kyodo_nor-2023022201000839