原題:『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』
監督:石井裕也
脚本:石井裕也
撮影:鎌苅洋一
出演:池松壮亮/石橋静河/佐藤玲/三浦貴大/ポール・マグサリン/田中哲司/松田龍平
2017年/日本
「奇跡」にしかすがれない人々について
都会の「負」の部分にスポットを当てた本作は、例えば、主人公の美香は病院で看護婦として毎日にように亡くなった人を見送り、看護婦だけでは生活できないために夜はガールズバーで働いており、もう一人の主人公である慎二は建設現場で働く日雇い労働者であり、同僚の岩下は体を酷使したために満足に働けなくなっており、元気だった智之は突然若年性脳梗塞で倒れてそのまま亡くなってしまう。同僚のみならず慎二が住むアパートの部屋の隣に住む老人とはゴミを出してあげたり本を借りたりする間柄だったのだが、老人が既に部屋で亡くなっていたことに近所の住人たちに教えられるまで慎二は気が付かなかったし、ましてや同僚のアンドレスの部屋で騒いでいる間に隣の部屋で仕事をしている人が騒音で迷惑がっていることなど気づきもしないのである。
学校の同級生だった女性によるならば慎二は成績が良かったようなのだが、左目の視力を失ったためなのか、他人とのコミュニケーションが上手くとれず、読書に没頭するか意味のないことを喋り続けるかするのである。
では本作には希望がないのかといえばそういうことはない。「がんばれ」と路上で歌を歌っていたRyokoがラストでメジャーデビューをしたり、作品冒頭で美香が見つけた飛行船を、ラストで美香と目の不自由な慎二が一緒に見つめたりするのではあるが、それはあくまでも奇跡である。滅多に起こることがない奇跡などに期待してしまっていいのかどうか疑問は残るのだが、それ以外に何があるのかとなると答えに窮してしまう。