澎湖島のニガウリ日誌

Nigauri Diary in Penghoo Islands 澎湖島のニガウリを育て、その成長過程を記録します。

北京五輪シンクロ・スイミングとピアノ協奏曲「黄河」

2008年08月23日 17時53分46秒 | Weblog

北京オリンピックのシンクロナイズド・スイミング(チーム)で懐かしい曲を聴かされた。中国チームの演目で流された、ピアノ協奏曲「黄河」である。

この曲は、もともと「黄河大合唱」という合唱曲を素材に、ピアノ協奏曲に編曲された。ピアノ協奏曲といっても、全4楽章で20数分という小曲で、楽曲としては陳腐な作品である。


だが、この曲には、政治的意図が含まれていた。文化大革命期(1966-76)に、毛沢東夫人である江青の後ろ盾で作られた作品(「中国中央楽団」集団制作といわれた)であり、毛沢東の個人崇拝を図り、江青率いる「文革派」の勢力拡大を意図するものであった。

第1楽章は黄河の夜明けで始まり、最終楽章は当時の「文革讃歌」であった「東方紅」をアレンジし、毛沢東が「新中国」を創ったと歌い上げるという内容だ。

当時、作曲家・芥川也寸志、評論家・中島健三などの「文化人」が、この曲を大いに礼賛していた。
この曲をレコーディングし、来日公演も行ったピアニスト・殷誠忠は、文革派と目され、文革後は米国への亡命を余儀なくされた。
なお、ユージン・オーマンディ&フィラデルフィア管弦楽団もこの曲を録音している。


それから40年余が過ぎ、北京オリンピックでこの曲が流れるとは夢にも思わなかった。
開会式の「口パク」で有名になった「歌唱祖国」という歌も文革期に歌われた、独裁者礼賛の歌曲であったが、こういう曲が今なお公式の場で唱われていることを、どう解釈すればいいのか。


「黄河」というタイトルは、中華文明を指している。だが、この中華文明は、「漢族」の文化を指すのであって、それ以外の「蛮族」は含まれない。また、「毛沢東が現れ、中国を救った。人民に幸せをもたらす救いの星である」という「東方紅」の歌詞は、個人崇拝の極致である。
21世紀のオリンピックには全くそぐわない曲であることは言うまでもない。


中国共産党幹部は、しばしば「日本人の歴史認識」を問題にする。だが、この「黄河」をオリンピックで聴かされると、数千万人が犠牲になった「文化大革命」を中国人自身が全く「総括」「反省」していないことは明らかなのだ。
「文革」は、中国人同士の”内戦”であった。当時、毛沢東の「親密なる戦友」であり後継者とされた、林彪「毛沢東は中国人民を巨大な肉轢き器に引き入れた」と述懐した、壮絶な殺し合いだった。

同じ会社で、同じ学校で、「こちらは文革派、あいつは反革命だ!」と殴り合い、殺し合った訳だが、その加害者と被害者は、今なお法的な処罰、救済など受けてはいない。
この狂気を冷静に分析すれば、必然的に中国共産党批判につながる。だから、当局は「中華愛国主義」を叫ばざるをえないのだ。


たかが、音楽。だが、されど音楽。いろいろ考えさせられることはある。